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バックパッカーズ・ゲストハウス(55)「裸になってなにが悪い」

前回のあらすじ:精神に病を抱える人のための施設、ホームレスをカモにする団体が運営する施設と施設を渡り歩いてきた久米と、ゲストハウスでAVをイヤホンなしで見る漢、藤沢という好メンバーが新たにバックパッカーズ・ゲストハウスの仲間に加わった。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 藤沢は全裸で部屋の中をウロウロするクセがあった。私が初めてそれを目撃したのは、そろそろ晩飯を食って、シャワーを浴びようとベッドから出たときだった。
 私はふざけ半分で、藤沢の手を引いて部屋の外へ連れてでた。そのままキッチンとリビングのある四階へ行くため、雑居ビルの階段を一緒に上った。

 藤沢は、「ムリムリ、ムリムリ」と表情と手振りで示したが、まんざらでもなさそうだった。身をかがめ、そろりそろりと薄暗い階段を上る藤沢の姿は妖怪みたいだった。

 そっと覗いてリビングの様子を確認すると、いつものように何人か人が居て、藤沢は、「ヒッヒッヒッ」というような声を出して、階段を下って逃げて行った。

「裸っていうのは、人間の一番自然な姿で、それを恥ずかしいというのは、人を作った神へ対しての冒涜だ」と龍は言っていたことがある。何となく説得力があったが、大抵の人間はパブリックな場所での裸に対していい感情を持たない。その後、同じように部屋の中を全裸でウロウロしている藤沢を見つけた久米は激怒して、前に、
「他の会社で名義が汚れてても、元ホームレスでも契約できる」と教えてくれたイーモバイルの端末を使いビギンに電話していた。

 千葉にいるビギンに、この問題に対処するため今すぐゲストハウスまで来るように求めていた。声を荒げる分けではないが、かなり面倒くさいヤツのクレームの入れ方で、ビギンが困っている様子が想像出来た。
 電話を終えたあと、様子を見ていた私に、
「僕はこういうの徹底的に戦いますよ」と言った。
 私は藤沢が裸でウロウロするのを幇助したことがバレて巻き込まれないように神に祈った。

 その後、藤沢は三階から五階へ移動になり、藤沢が使っていたベッドには、丸眼鏡を掛けて黒いチューリップハットを被った男が入って来た。記憶ではマントを羽織っていたような気がするが、そんなはずはない。ただそんな印象を与える雰囲気だった。

 ベッドの前にどこかで拾ってきたような足の短いテーブルが置かれていて、出入りするのにそれを避けなければいけないので、
「そこのベッド使いにくいでしょ?」と私が話しかけると、
「僕が使いにくいってことは、他の人も使いにくいでしょ」それなら僕が使うというような意味合いでそういった。

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