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バックパッカーズ・ゲストハウス.51「一三〇円を二度払うというライフハック」

前回のあらすじ:ゲストハウスで上段のベッドに住む男が脱ぎ散らかした靴下を片付ける代わりに、毎日うまい棒を二本もらうという生活をしていた私にも給料日がやって来た。それで親友の龍に金を返すことにした。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 それまで龍との待ち合わせは大体新宿だったが、この時は秋葉原まで彼がやって来た。新宿で万が一知り合いに会いでもしたら面倒くさいと思ったのだろう。ビギンが私のことを向かえに来たコンビニ前で落ちあった。

 せっかくなので、住んでいる場所を見せようと、ゲストハウスまで案内したが、階段を上る手前で、
「もうここでいい。なんかヤバい感じがする」と本当に嫌そうな顔で言った。
 私は麻痺していて分からなかったが、彼がそう言うのだから、この建物自体から、相当な雰囲気が醸し出されていたんだろう。

 龍の近状を聞きながら上野まで歩いた。なんの為に働いているのか分からなくなり、急に全部嫌になったみたいだった。かなり稼いでいたが、家賃が五十万弱の家に住み、いままで一緒に住んでいた女の生活費も面倒見て、なおかつ取り巻きと行動し、自分はパンクと暮らす。それで金は毎月いくらも残らない生活をしていた。

 龍が発作的になにもかも捨てて、どこかへ行くというと、パンクは着いて行くと答え、二人で着の身着のまま山梨に行ってたそうだ。二人で一杯の牛丼で腹を膨れさせるために、カウンターに置いてある紅ショウガを全部入れて食って、店先からのぼりをパクって、それを毛布の代わりに羽織って道で寝たと言っていた。病んでるやつとパンクロッカー。お互いロマンチストなので、楽しかっただろうなと思った。

 何となく山梨になっただけと言っていたが、私を静岡に向かえに来たのが、二人で初めての遠出だったらしく、富士山が近いので、潜在的に惹かれたんじゃないかと思う。

 一日だけ放浪をして、今は立川のレオパレスにパンクと住み、日雇いの現場に行っているという龍は、立川―秋葉原どころか、山梨―秋葉原でも、
「二六〇円で行ける方法を発見した」と教えてくれた。

 初乗り運賃で切符を買って、改札を出るときに、「切符を無くした」と言えば、どこから乗ったか聞かれるので、その時に一番近い駅を言えばいいらしい。発見してから何度もその方法を使っているらしく、

「たまにどこの乗り口から乗ったか聞いてくる駅員がいる。そういう時は、交番があるとこと答えればいい。駅っていうのは、大抵側に交番があるから」と言った。

 せっかく教えてもらったので、私も一度だけ試してみたことがある。後日、龍の新居に遊びに行ったときに、立川の二つ三つ先の駅から秋葉原までの帰りで、降りるときに切符を無くした振りをして、御徒町だと近すぎる気がしたので、「上野から乗った」と駅員に言った。駅員は申し訳なさそうに、

「もう一回乗車料金を払って貰わないといけない」と一三〇円請求した。

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