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バックパッカーズ・ゲストハウス㊵「チョヌン ピョンテ タロウ イムニダ」


 前回のあらすじ:韓国から来た新入居者ヨンの怒りを静めるため、一度は封印したまずいパスタを再び作る。そして、人間はまずいものを食べているときは無口になることを知る。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 ヨンとのことで、余談を他に二つほどすると、彼女は、
「韓国と比べて日本人の女の人はとても綺麗。でもそれは化粧が上手いからだ。――日本の男は全然ダメ。韓国の男の人の方が断然男らしい」と話したことがある。その時に、
「でも私のお兄さんは全然男らしくない。二十五になってもまだ兵役に行ってない、情けない」と言った。その時も価値観の違いを感じた。

 ヨンがゲストハウスに入って間もない頃、バイト先でまかないを食っているときに、韓国人のホールスタッフと一緒になったので、
「ゲストハウスに新しく韓国の女の子が入って来た」と世間話をした。すると彼女は、
「ぜひ韓国語で話しかけてあげてください」と、
「チョヌン ピョンテ タロウ イムニダ」という言葉を教えてくれた。

「『私はタロウです』という意味だが、『ピョンテ』というフレーズを入れることで、とても丁寧な感じになる」と笑顔で言った。
 その日だか、次の日だか、晩にゲストハウスのリビングへ行くと、ヨンとチヨが揃っていた。チヨが、「太郎お疲れー」と気安く声を掛けてきたので、私はここぞとばかりに、

「チョヌン ピョンテ タロウ イムニダ」と教えられた言葉を使った。
 二人は驚いた表情で顔を見合わせてから笑った。私は二人が喜んでいるのだと思って、もう一度、「チョヌン ピョンテ――」と同じ言葉を繰り返した。二人は一度目よりも更に笑った。
 ヨンが、
「あなたは、その言葉の意味を分かっていて使っているのですか?」というので、
「丁寧な自己紹介だろ」というと、二人は、「そうだ、そうだ」と頷き、
「日本人でこんな丁寧な挨拶できるなんてすごい」と私を褒めた。

「ピョンテ」が、「変態」という意味だと知るのは、それから二ヶ月も後のことだった。

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