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バックパッカーズ・ゲストハウス(68)「餞別にもらうタバコ」

前回のあらすじ:六月の最終日。ゲストハウスの面子が私のためにお別れ会を開いてくれた。食べるものがなくなったところで、文学青年の塚田にコンビニへ行こうと誘われて、二人でパーティーを抜け出すというロマンスを予感させる展開がおとずれた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2


 コンビニで塚田は、
「値段もだけど内容量を気にしちゃうよね」とお菓子の裏に書かれた表記を丹念にチェックした。それは私もよくやる行為だった。
 塚田は、コンビニの帰りに何度も、
「太郎君、君はね、君はね」と言った。そう繰り返すばかりで、私がなんなのか、その続きは無かった。

 ゲストハウスに戻り、塚田と一緒に喫煙場所でタバコを吸っていると、IT会社で働く吉野が来て、私に、
「このタバコ吸ってみますか?」と緑のパッケージに船乗りのイラストが描かれた見慣れないタバコを一本くれた。「アークロイヤル アップルミント」と表記されたそのタバコは、綿飴を煙にしたような味だった。

「もし気に入ったら、全部あげます」と餞別代わりに、ほぼ新品のそれを気前よく私にくれた。

 かなり遅くまで飲んだが、少しずつ人がバラけていって、解散という流れになった。酔っ払った塚田は、三階に降りる間にまた、
「太郎君、君はね」と言っていた。

 ベッドに入ると、ニキから写真が送られてきた。ニキが通う高田馬場にある専門学校で、学園祭のようなものがあり、招待されたことがある。
 ゲストハウスの他の面子も招かれていて、それぞれ好き勝手な時間にバラバラに行った。寝坊した私がかなり遅めの時間にひとりで行くと、すでに中尾や恭平、斉藤、ヨシノブが居た。そこで、ニキの作ったカレーのようなものを、スプーンのかわりにエビせんべいみたいなものですくって食べるインドネシアの料理を振る舞われた。
 ニキの同級生がデザートを持ってきてくれて、
「きみ、おしるこって知ってる? 凄い甘いんだよ!」と私のことをインドネシア人と勘違いして教えてくれた。

 聞くと午前中には高田も来ていたそうだ。高田のこともちゃんと誘う辺り、ニキの真面目さが出ていた。
 学園祭がお開きの時間になると、帰りはみんなで一緒に電車に乗ることになった。

 余って勿体ないので、カレーのようなものをゲストハウスに持って帰ろうということになったが、入れ物がなくて、ゴミ袋に入れて持って帰るという真っ当とはいえない方法をとることにした。誰も持ちたがらなかったので、一番優しい恭平がカレーみたいなものが入ったゴミ袋を持つことになった。
 その恭平の提案で、ヴィレッジヴァンガードに寄り道することになり、彼は入り口の近くの物陰に袋を隠して店内を物色した。

 ニキから送られてきた写真は、その学園祭の時にみんなで撮った写真で、ファイル名に、「同じ空の下で」と付けられていた。

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