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ショートショート部屋

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たらはかにさん主催の #毎週ショートショートnote  に参加した作品をまとめています。
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#410字のショートショート

失恋墓地(#毎週ショートショートnote)

おばあちゃんがついに再婚する。 お相手は長年通ってるコーラスグループの桐谷さん。 私も1度会ったけど、なかなかお似合いだと思う。 おじいちゃんに先立たれて30年目の春だって。幸せになってほしい。 「墓じまいするから、沙也も来てみる?」 誘われた時はさすがに は?ってなった。 「パパとママは知ってるの?」 おばあちゃんはすまし顔で言った。 「いいの、うちのお墓は関係ないのよ」 こんな場所、初めて来た。 墓石を見たら驚いた。見たことのある名前が刻まれてる。 しかも、まだ絶対

宝くじ魔法学校(#毎週ショートショートnote)

クリスマスの炊き出しはいつもより侘しい気になる。 それでも街じゅうが浮かれてる中、熱い汁やおにぎりをもらえるんだから有難いよな。いつものメンバーには本当に感謝だ。 白い息を吐きながら足踏みして列に並んでいると、 「今年はクリスマスプレゼントがあります」 ボランティアの学生が年末ジャンボを1枚ずつ皆に配ってくれた。 これが当たれば万々歳だが、世の中そんなに甘かねえ。 それでも心遣いが憎いじゃねえか。晦日までの小さな楽しみだ。 俺は大切に持ち帰り、妻の位牌の隣にそっと置いた。

穴の中の君に贈る (#毎週ショートショートnote)

「ーロバート?」 私の声はふわんと反響し、瞬く間に闇へ吸い込まれていく。 耳をすますと彼の静かな息づかいが聞こえた。 「ロバート、もう一度顔を見せてくれる?」 さっきより少し大きな声で叫ぶ。 暫くして、彼が歩いて来た。 「引きこもりっていうんでしょ?こういう暮らし」 「まあ、そうも言えるかもね」 私は彼の肩にのったゴミを払いながら答えた。 眼が合う。穏やかな、秋の森みたいなブラウンの瞳。 彼の半生を想う時、決まって泣いてしまう。 ロバートはクレバーで優しい青年だ

チャリンチャリン太郎(#毎週ショートショートnote)

今年も盆が来るなあ。 この頃になると、実家の親父から聞かされていた「チャリンチャリン太郎」の話をいつも思い出すんだ。 村にやってきた、身なりの貧しい男の話だよ。 ある日ふらりとやってきて、消えたと思ったらまたやってくる。 無精ひげを生やして、おどおどした目つきでさ。 村の住民が挨拶しても顔をそらすばっかりで、 いったい何の目的で村に来たのかわからない。 だんだん気味悪がられて、そのうち子盗りだろう、なんて噂が立ち始めた。 ついに村の若衆が山寺で待ち伏せしてひっ捕まえた

ふりかえるとよみがえる(#毎週ショートショートnote)

「あ、忘れた」 ふりかえると、カッチャンが口をポカンとあけ固まっていた。 げ、まただ。 今日は何だろう。宿題のプリントか、体操服か。 「パンツはいとらん」 ぎょえ。久しぶりのパンツ。 「どうする?帰る?」 「ううん、ガッコウ行く」 カッチャンは忘れ物の天才だ。 毎日何度も、幾つも忘れる。だけどそれはカッチャンの脳で、何かが悪さをしているから、らしい。 だからクラス全員で話し合った。 「みんなでカッチャンの応援団になろう。」 カッチャンは土日でも学校へ行きたがった。

サラダバス(#毎週ショートショートnote)

「ねえ、マジでなんとかならないの?」 僕は苛立ちながら添乗員に囁いた。 楽しみにしていたこの屋根なしバスツアーには、なぜか癖のある客ばかりが揃っていた。 彼らは乗り込んだ時から些細なことで言い争いばかりしている。 やれ一番背が高いのは俺だ、色白なのは私よ、家の歴史がお前らより古いだの、暑さに強いだの寒さに強いだの。 よくまあ、と呆れるほど次々に対立の種が生まれ、車内の雰囲気は最悪だった。 なのに添乗員は呑気に言い放つのだ。 「大丈夫ですよ。当ツアーは、最後には皆さま必ず

カミングアウトコンビニ(#毎週ショートショートnote)

店員がバーコードを通し終えると、ピロピロローンと妙な音楽が流れた。 「おめでとうございます!下3桁スリーセブン!」 受け取ったレシートを見る。777か。 ここはコンビニだが、この並びはなぜか浮かれちまう。 「何かくれるの?」 「こちらのクジをお引きください」 なんだ、コーラかお茶1本ってとこか。 気が抜けたが、店員が持ってきた小箱に手を突っ込んだ。最初に指にふれたクジを迷わず引きあげる。 「凄い、大当たりです!!」 店員の声が上ずった。 「店内の商品、いつでも好きなだ

読書石けん(毎週ショートショートnote)

「山根さん、この前の金子みすず、どうだった?」 入室するとすぐに、杉田先生が声をかけてきてくれた。 「とっても感動しました。眼差しが純粋で…優しくて」 「そう、良かった。今日はあと30分で閉まるから、早めに選んでね。あ、本はいつもみたいに石けん使って、しっかり、ね」 「わかりました」 西日が差しこむ放課後の図書館ほど、私の心が落ち着く場所はない。 他の生徒はみんな下校してしまうから、だいたいいつも私一人の貸切状態だ。 先生の言いつけを守って、読書石けんでしっかりと、金

2人用AI (#毎週ショートショートnote)

「あなた、これ何ですの?」 「金婚式のプレゼントじゃとよ。さっき章から届いたんじゃが」 急須に似て丸く、小さなランプが点灯している。 食卓の真ん中に置くようにという息子からの手紙も同封されていた。 「…飾り物かしら…?」 「そんなとこじゃろう。若い者のセンスにはついていけんがのう」 暫くすると、2人にもその役割が何となくわかってきた。 自分たちの会話を記憶し、相手がいない時には代わりに応えてくれるのだ。 「おーいばあさん。眼鏡を知らんか」 「アナタノ頭ノ上デスヨ」

朝の逆転(#毎週ショートショートnote)

なんであの店に入ったのか、覚えていない。 シラフなら絶対に視界にも入らなかった。 黴臭い赤い絨毯張りの、小柄な女が独りでやってる小さなカウンターバー。 他に客はいなかった。 すぐに出ようとする俺を引きとめ、場違いな、だけどとんでもなくうまいカフェオレを作ってくれたんだ。 パッと見、冷たく見えた女は、口を開けば驚くほど気さくでチャーミングだった。 世間に見下され続ける日々や、苦い思い出だけの故郷の話。 自分でも呆れるほど、俺は洗いざらい彼女にぶちまけていた。 聖人君子の仮面

自己紹介草(#毎週ショートショートnote)

枕元の目覚まし時計がルルルル、と軽やかに鳴った。 と同時に、勝手に体がはね起きる。 昨日までの怠惰な自分がウソみたいだ。 顔を洗い、鏡を見て大きく深呼吸をした。 さあ、旅立ちの時。 ついにこの日がやってきたのだ。 「自信を持て。大丈夫さ」 鏡の向こうの僕に笑いかける。 慣れ親しんだ部屋も今日でお別れ。ドアノブを静かに回した。 その途端、眩い光に包まれた。 同時に僕の体から、すごい力で何かが引きずり出されていく。 「…ッ…くううッ…!!」 激しい衝撃に、気が遠くな

鏡顔 (#毎週ショートショートnote)

若い頃戦争に行った祖父から聞いた話だ。 その戦いはある日突然始まった。 いったい何が原因なのか祖父や他の若い兵士達は何も知らされないまま、軍部から下った相手国への侵攻命令に従わなければならなかった。 ただ手柄の1つも立てれば報奨金が出て、その後の暮らしは一生安泰だと言われていた。 だからとにかく相手は悪いやつだと考えるようにした。 そうして戦意を高めたのだ。 戦車に乗りこみ、ついに敵国の首都へ。 人気の消えた広場に、鏡で造られた巨大な塔が神々しく立っていた。 銃を

笛注意報(#毎週ショートショートnote)

 「最近耳鳴りがひどいのよね、更年期かしら」  「お前もか。実はここんとこ俺もさ。笛の音みたいな甲高い音が聞こえるんだよ。年だろうな」  「やあね、夫婦で。お隣の奥さんところと同じよ。」  「ママ、あたしも耳鳴りするの」  「えっ、ユミも?高校生でなんて…心配だわ、いつから?」  「このひと月くらい。ピーって音がずっとよ。クラスの友達も言うわ、だんだん大きくなるって…あ、まただ!」  「ママもよ!やだコレ、大きいわ…!」  「見ろ、臨時ニュースだ!」  父親が

さしすせそサイン(#毎週ショートショートnote)

 大好きだった園子おばあちゃんが死んでしまった。母と遺品整理に来たけれど、悲しくて涙が止まらない。  幼い頃の私はおばあちゃんにべったりだった。優しくて、歌番組が大好きで、身のこなしがどこかチャーミングだったおばあちゃん。認知症になったのは数年前。それから急に自分のことを園子と呼ぶようになったっけ。もっと色んな話を聞きたかったのに。  泣きながら押入れを片付けていたら、綺麗なクッキー缶が出てきた。蓋を開けると、中には1枚のアナログレコード。レトロなミニスカート姿の5人の女性