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穴の中の君に贈る (#毎週ショートショートnote)

「ーロバート?」

私の声はふわんと反響し、瞬く間に闇へ吸い込まれていく。
耳をすますと彼の静かな息づかいが聞こえた。

「ロバート、もう一度顔を見せてくれる?」

さっきより少し大きな声で叫ぶ。

暫くして、彼が歩いて来た。

「引きこもりっていうんでしょ?こういう暮らし」
「まあ、そうも言えるかもね」


私は彼の肩にのったゴミを払いながら答えた。
眼が合う。穏やかな、秋の森みたいなブラウンの瞳。


彼の半生を想う時、決まって泣いてしまう。
ロバートはクレバーで優しい青年だった。
その繊細な心はそれ故に、長い間の隷属にひどく傷ついていた。
絶対に彼を救い出す。
そう決意した私にも、心を開いてくれるまで長い時間がかかった。


「次に君と会えるのはいつ?」

彼は知らない。無理もない。

「春よ。貴方が目覚めた時が春。たっぷり眠ってね」


嬉しさの余り、彼は華麗な1回転を披露してくれた。
サーカス時代の記憶は消えないだろう。
それでもロバート、春の貴方はもう、名もなき熊。

(411字)

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