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tkganz
ふりかえるとよみがえる(#毎週ショートショートnote)
「あ、忘れた」
ふりかえると、カッチャンが口をポカンとあけ固まっていた。
げ、まただ。
今日は何だろう。宿題のプリントか、体操服か。
「パンツはいとらん」
ぎょえ。久しぶりのパンツ。
「どうする?帰る?」
「ううん、ガッコウ行く」
カッチャンは忘れ物の天才だ。
毎日何度も、幾つも忘れる。だけどそれはカッチャンの脳で、何かが悪さをしているから、らしい。
だからクラス全員で話し合った。
「みんなでカッチャンの応援団になろう。」
カッチャンは土日でも学校へ行きたがった。
それくらい学校と皆のことが大好きだったのだ。
時々びっくりさせられたけど、僕もカッチャンが好きだった。
二学期が始まると、カッチャンは東京の病院に入院した。
皆またすぐに会えると思っていた。先生がそう言ったからだ。
でもそれきり、カッチャンは戻らなかった。
◇
営業マン3年目の夏。
今年も猛暑だ。
『あ、忘れた』
ふいに懐かしい声がする。
僕は汗を拭き拭きふりかえる。
カッチャン。
忘れてないさ。
(410字)
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