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2人用AI (#毎週ショートショートnote)

「あなた、これ何ですの?」
「金婚式のプレゼントじゃとよ。さっき章から届いたんじゃが」

急須に似て丸く、小さなランプが点灯している。
食卓の真ん中に置くようにという息子からの手紙も同封されていた。

「…飾り物かしら…?」
「そんなとこじゃろう。若い者のセンスにはついていけんがのう」

暫くすると、2人にもその役割が何となくわかってきた。
自分たちの会話を記憶し、相手がいない時には代わりに応えてくれるのだ。

「おーいばあさん。眼鏡を知らんか」
「アナタノ頭ノ上デスヨ」

「あら、今夜はお薬飲んだかしら?」
「バアサン、サッキ飲ンダバカリジャナイカ」


慣れてみれば、AIはなかなか便利だった。

数年後、妻は夫を残して旅立った。
葬儀のあとで、息子の章は妻に得意気に語るのだった。

「な?あのAI、早いうちに置いといて正解だったろ?おふくろの口癖も旅行の思い出も、完全にデータ化されてるよ。親父は全然淋しがってない。一緒に住もうなんて、当分言われないさ」

(411字)

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