読書石けん(毎週ショートショートnote)
「山根さん、この前の金子みすず、どうだった?」
入室するとすぐに、杉田先生が声をかけてきてくれた。
「とっても感動しました。眼差しが純粋で…優しくて」
「そう、良かった。今日はあと30分で閉まるから、早めに選んでね。あ、本はいつもみたいに石けん使って、しっかり、ね」
「わかりました」
西日が差しこむ放課後の図書館ほど、私の心が落ち着く場所はない。
他の生徒はみんな下校してしまうから、だいたいいつも私一人の貸切状態だ。
先生の言いつけを守って、読書石けんでしっかりと、金子みすずの詩集を洗った。
図書館の本はそのまま返却すると、借りた人間の感情がシミになって、本に残ってしまう。
それをしっかり洗い落とさないと、次に借りた人は自分の感性だけでその作品を読み取ることが出来なくなってしまうのだ。
洗い方にはコツが要る。
注意しないと本はすぐにふやけ、頁が破れてしまう。
他の生徒はそれが面倒で、誰も来なくなった。
読書石けんは、いい習慣だと思う。
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