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鏡顔 (#毎週ショートショートnote)

若い頃戦争に行った祖父から聞いた話だ。


その戦いはある日突然始まった。

いったい何が原因なのか祖父や他の若い兵士達は何も知らされないまま、軍部から下った相手国への侵攻命令に従わなければならなかった。

ただ手柄の1つも立てれば報奨金が出て、その後の暮らしは一生安泰だと言われていた。
だからとにかく相手は悪いやつだと考えるようにした。
そうして戦意を高めたのだ。

戦車に乗りこみ、ついに敵国の首都へ。

人気の消えた広場に、鏡で造られた巨大な塔が神々しく立っていた。

銃を構えた自らの姿が映っている。

「破壊せよ」

戸惑いつつも兵士達は命令に従う。自身の姿目がけて発砲した。

鏡の壁は忽ち砕け散る。
だが中にはさらに鏡があり、それを見た兵士達は皆茫然とした。

そこに映るのは軍服こそ着ているが、幼い頃の自分ではないか。

「あの時わしは初めて自分を恥じた。戦争はいかん」

まだ青年のような顔立ちの祖父の頬には、自分の銃であけた傷跡が今もくっきりと残っている。

(411字)

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