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#6 世にも美しい数学入門 著:藤原正彦/小川洋子(私の本棚①)

さて、前回と前々回と、長めに前置きをかましたところ、本編はサクサクとやや短めになるかと思います。

初回は、「世にも美しい数学入門」

数学者の藤原正彦さんと「博士の愛した数式」を書かれた小説家の小川洋子さんの対談集となっています。

私が高校生の時に「数学の道に進まない」きっかけとなった1冊です。初回からトリッキーな感じですが、人生を変えた1冊に選んでよいかな、と思える1冊であることは確かです。先日、電子書籍版を購入しまして、およそ15年ぶりくらいにこの本を読みましたので、改めて特に気に入ったところを紹介していきます。

第一部 美しくなければ数学でない

第一部は全体的に「日本人万歳」的な論調になっていて、少し違和感をおぼえるところがないわけではないですが、「数学の美しさ」や「それに魅せられて生涯を捧げる数学者」の物語を中心に話が進んでいきます。そのなかで、小川さんが、俳句と数学の関係性について

実は数学において複雑な数学的現象を一行の数式でピッと統制する美しさと、大自然を五七五という最少の言葉で表現する俳句とは、非常に近いものがある

と表現されています。今の自分が、改めて読んでも、ハッとさせられるフレーズです。おそらく初見の自分も、数学は美的センスが必要なジャンルなのだ、という認識になったのではないかと思います。

第二部 神様が隠している美しい秩序

第二部では、完全数や素数など、いくつかのトピックに焦点を上げながら、「秩序」という観点で数学の美しさについて掘り下げていきます。

私が「数学の道に進まない」と決めるきっかけになった、「ゲーデルの不完全性定理」も出てきます。(以前こちらの記事で、その理由について書きましたので、興味ある方はどうぞ。)

本の中では「数学はこんなにキレイに秩序だっているのだから、この世界の秩序をつくった神様がいるはずだ」という有神論的な世界観を前提に話が進んでいくのですが、最終のセッションでは、数学の新しい発見をすることを指して「神様の手帖を覗けるとしたら」という表現がでてきます。

「神様の手帖を覗く」というと、自然や真理にひざまずく謙虚な姿勢という感じがしますが(第一部で藤原さん自身が天才数学者の条件として「何かにひざまずく姿勢」とも述べられています)、数学者のエピソードでは「秩序」「美」とは程遠い「諦めの悪さ」「しつこさ」が随所に出てきて、数学という秩序だった世界を覗こうとする人間の探究心は、ほとんど執念以外の何物でもない、と思えてきます。

そう考えると「神様の手帖を覗く」というより「神様の手帖を無理やりこじ開ける」くらいの方がしっくりくるかもしれません。その「人間の執念」が世界の秩序を解き明かすエネルギーになっているのだとすると、何とも趣があるというか、深いなぁ、と思います。

そんな、深淵なる数学の世界とそれを解き明かそうとする人間の業について考えさせられたのがこの1冊です。

この話の続きは5回くらい後の「限界」シリーズの時にも語る予定です。

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