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20090428 伊勢神宮奉納能楽(3)

 今日、初めて能に出演した。伊勢神宮の能舞台$${^{*1}}$$で出た。出たと言ってもその他大勢のような役である。地謡$${^{*2}}$$と言う合唱団の一員を務めた。

 $${^{*3}}$$は形式の定まった演劇である。舞台の構成$${^{*4}}$$は、大きく分けて三つの役目に分かれている。一つは主人公や脇役を演ずる者、一つは小鼓や太鼓を演奏する者、残りは合唱を担当者に分かれる。主人公を「シテ$${^{*5}}$$」脇役を「ワキ$${^{*6}}$$」、それぞれに連れられて登場する者を「ツレ$${^{*7}}$$」、「ワキツレ」と言う。演ずる者をシテ方(かた)、ワキ方(かた)といい、それぞれ専門の流派がある$${^{*8}}$$。彼らが檜舞台の上でそれぞれの役を演ずるのである。楽器は小鼓、大鼓、太鼓、笛があり、演奏する者を「囃子方(はやしかた)」と称し、これもやはりそれぞれを担当する流派がある。合唱は「地謡(じうたい)」と言い、これはシテ方が担当する。能舞台に向かって右端に並んで正座する$${^{*9}}$$。今回の出し物では地謡は、十一人構成だった。前後二列に並び、後列の中央付近には地謡の頭となる地頭(じがしら)がすわる。私は前列の一番奥、観客席から最も見難いと思われる場所に座った。

 合唱なの少々歌詞を忘れても殆ど問題はない。問題なのは正座である。シテ方に予期せぬ事態が発生したため、出し物の時間が短縮された。一時間十分程度の上演時間が一時間弱になった。とは言え三十分以上正座していれば、しびれが切れる条件は同じである。足がしびれると足首から下が全く制御不能になってしまい、満足に立つことができなくなる。最悪の場合、動かせるつもりで立ち上がり、転倒して骨を折ることもあるらしい。今回は足しびれ対策に正座椅子$${^{*10}}$$を使った。この椅子を作って頂いた先輩の助言に基づき椅子を使った正座の練習をして能の初出演に臨んだのである。

 しかししびれが切れた。利き足の右足は良かったが、左足は自分が立ち上がるまでに完全に恢復していなかった。転倒まではしなかったが、よろけて捻挫をしてしまった。非常に軽い捻挫なので、この後に幾つかの数分から十数分程度の出し物への出演には影響しなかった。件の先輩に「どうだった」と聞かれた。駄目だったと答えると「歩く時にしびれが切れた方の足の爪先を使っていかん。踵だけであるくようにせんといかん」と教えてくれた。

 能楽を職業としている能楽師が演ずる本格的な能に参加する機会を得て非常にいい経験をした。舞台に出る前の張り詰めた空気や緊張感、永く受け継がれてきた芸能$${^{*11}}$$の創り出す空間と一体化している自分を感じるのは楽しかった。

*1 20090421 伊勢神宮奉納能楽(2)
*2 能の誘い / 能について / 能楽用語集(地謡)
*3 日本財団図書館(電子図書館) 鑑賞の手引き「能と狂言」
*4 能舞台|能楽事典|大槻能楽堂
*5 能の誘い / 能について / 能楽用語集(シテ)
*6 能の誘い / 能について / 能楽用語集(ワキ)
*7 能の誘い / 能について / 能楽用語集(ツレ)
*8 各役の説明 | 能楽とは | 能楽事典 | 社団法人 能楽協会
*9 地謡(じうたい) | 演技と音楽 | 能の構造 | 能楽
*10 日本正座協会 -正座椅子情報-
*11 20061021 世界無形遺産

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