名著『イシューからはじめよ』
今日は名著『イシューからはじめよ』について書いていきます。有名な本なので、改めて紹介するまでもありませんが、元マッキンゼーで慶應SFC教授の安宅和人さんが書かれた知的生産に関する本です。
本書では、生産性を向上させるためにはイシューの見極めが非常に重要であるということが述べられている。本書のキーワードであるイシューについては後で述べるとして、もう1つのキーワード「犬の道」について紹介する。
・「犬の道」を避ける
イシュー度の低さを意識せず、一心不乱に大量の仕事をすることで、バリューをあげようとすることを本書の中では「犬の道」と表現されている。「犬の道」は何としても避けなければならない。
「犬の道」は高い生産性とは対極にあるものだ。生産性の向上のためには、どれだけ短いインプットで多くのアウトプットを得るかが重要なのだ。高いアウトプットを生み出すために、インプットを増やす(分かりやすく言えば長時間労働で埋め合わせる)ことは高い生産性とは言わないのだ。
特に日本人は気質なのか根性論に逃げやすい。私たちは根性に任せて、
「思いつく限りのことをやってみよう」
「倒れるまで働け!」
「気合だ!気合だ!気合だあああああ!」
と、いつの間にか「犬の道」に突き進んでしまうことが多々ある。
根性任せに突き進んで中々上手くいかない時は「自分が犬の道に進んでいないか」を意識して一度手を止めて自分が本当に解かなければならない問題は何なのかをしっかりと見極める(それがissue-driven)必要があるのだ。
・イシューはとても難しい
本書のキーワードであるイシューについてだが、イシューの概念を理解することは難しい。この本を読んだら誰でもイシューから考えられるようになるというほど簡単なものではない。大半の人は「イシューが大事なんだな」くらいの理解で終わってしまう可能性が高い。
これについては安宅さんもご自身のブログの中で
と述べている。
つまり、自分が実際に経験をして、その感覚を味わい、感覚をを通じて理解してようやくイシューの概念が「わかる」のであって、他人事として本を読んでそのことを「知る」だけでは不十分だということだ。
これは読者の立場からすると厳しい。実際に現場に立って課題に取り組み悪戦苦闘したことがなければ、本当の意味でイシューが分かったことにならない。何とも酷な話であるが、納得である。
私自身は職業柄、大学や会社で研究開発の仕事をしていて、イシューを意識しやすい環境にいたため、本書の言いたいことはわかるのだけれど、もしこの種の仕事についていなければ、理解出来なかったであろうし、本書を読んでここまで感銘は受けなかっただろう。
そして、さらに厳しい話であるが「イシューを見極められる」と「イシューが重要であることを知っている」の間のレベルの隔たりは非常に大きいように感じる。
イシューが大事なことは十分知っているけれど、イシューの見極めが出来ず、結果「犬の道」に進まざるを得なくなってしまうことはある。私も自分が「犬の道」に進んでいることが分かっていながらも、他にどうすることも出来ないため、そのまま突き進んでしまうことがある。
それでも、本書を読む前に比べれば、「犬の道」に突き進んでいるときに立ち止まって、もう1度イシューについて考え直す機会が増えたのは間違いないが。
・個人的圧巻は第2章のイシュー分析
本書はイシューについてばかり注目されがちであるが、個人的には第2章の「イシュー分析」もとても勉強になった。
やっとのことでイシューを把握したとしても、イシューが分かっただけでは生産性は向上しない。イシューを「答えを出せるサイズ」まで分解し、分解したイシューとそれぞれに対する仮説に基づき、イシュー全体を検証するためのストーリーラインを組み立てて、アウトプットできる形まで持っていく必要がある。これは本書の中では「イシュー分析」と表現されている。
私たちは、ただ問題を解決すればいいというわけではなく、解決した問題について人に伝えるというプロセスが必ず必要になる。パワーポイントを作ってプレゼンする、論文を書くなどのテキストとして伝えるなど様々あると思いますが、どんな形であれ、人に伝えるならば、ストーリーが重要になる。イシューやイシューに対する答えだけではストーリーにならない。
イシューやイシューに対する答えを人に伝えるためのストーリーラインの組み立て方、組み立てたストーリーラインの質の上げ方が細かく説明されている。詳しくは本書を読んでもらいたい。
本書を読んで学んだ「イシュー分析」は私の中で非常に活きていて、
「発表スライドを作りながら実験を行う」で描かれている「常にストーリーを意識する」や「視覚化して自分のやっていることを明確にする」は「イシューからはじめよ」の影響を受けている。
イシューは確かに難しい概念であるし、読んだらすぐにイシューが見極められるとは言わないが、それでも必読の書であることは間違いない。
じゃあ、またいつか会いましょう!