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直感は鋭いタイプ? 直感の正体が科学的にわかったお話。── 今からはじめるマインドフルネス入門㉑

みなさんは、直感は鋭いタイプですか? 

「そもそも、直感ってどういう意味?」
「あなたの言う直感の定義を、具体的に教えてくれる?」
「ていうか、まずそこに正座してもらっていい?(なぜ半ギレ)」

 と思われた方は、たとえばこんなシチュエーションを想像してください。

 膨大なテスト範囲の中から「この問題が出そうな気がする」と思って勉強していたら、テスト当日に実際その部分が出題される。

 あるいは親しい人と会ったときに、なぜか理由なく「これからネガティブなことを切り出されるんじゃないか」と感じて、実際にその通りになる(嫌な予感は的中する、というあれです)。

 日常生活の中で、なにか急に頭のなかにヒラメキを感じる
 それは順序立てて練られた思考の結論ではなく、いきなりポンと目の前に答えが出されるような体験です。考える間もなく、あまりにも突然答えが出てくるものだから、後になってその答えの理由がわかることもあるし、あるいは理由が分からないまま正解だけを手にすることすらあります。


「今日、あなたに会う気がしてたの!」

「なんとなく、この店に入ってみよう」

「帰り道は電車よりバスの方がいい気がする」

 このヒラメキを「直感」と呼びます。

 なぜそう感じたかは分からないけれど、とにかく「なんとなく正しい」という感覚です。この感覚はどんな人にも少なからず具わっています。

 でも「直感って、なんで感じるの?」と人に聞かれると、なかなか答えるのが難しいですよね。なんせ「なんとなく正しい」という感覚なので、「なんとなくそう思う」としか普通は答えられないわけです。「でも、確かに感じるの。あなたにもそういうことがあるでしょう?」と。

 今日は直感の正体と、そのトレーニング方法についてご紹介していきます。

アイオワ大学の直感に関する実験

 グーグルの瞑想プログラム「SIY」について書かれた『サーチ・インサイド・ユアセルフ ― 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法』のなかに、アイオワ大学で行われた実験のエピソードが紹介されています。

 実験の概要は以下の通りです。

  • この実験はいわば「お金をもらうゲーム」です。

  • 実験では、被験者の前に4組のカードがテーブルに置かれています。

  • 2組は赤いカード。2組は青いカード。

  • カードを1枚引いてみると、そこにはそれぞれプラスとマイナスの数字が記されています。最終的にその数字の合計の金額をもらえます。

  • 多くの金額をもらうためには、プラスのカードをなるべく多く引く必要があります。

  • 被験者は、好きなようにカードを引き続けます。

 しかし、このカードの山には実は仕掛けがあります。

 それは「赤いカード」はマイナスばかり、「青いカード」にはプラスばかりが入っているというものです。だから「青いカードを引き続けることによって、もらえるお金を最大化できる」わけです。その事実にいかに早く気づけるかで、被験者の獲得金額は変わってきます。

 この実験でわかったことは、以下のことです。

  • 50枚を引いたころに、多くの人は「青カードが好ましい」と思い始める。でもその理由はわからない。

  • 80枚を引くころには、ほとんどの人はカードの秘密を見破って「なぜ赤のカードをめくるのが良くないのか」をはっきりと説明できるようになる。

 
 つまり、80枚目になって頭で理解するより30枚も前に、直感で「赤は良くない」と感じていたわけです。

 ……しかもこの実験には続きがあります。

 実は被験者たちは、このカードゲームをする際にポリグラフ「嘘発見器」をつけていて、手のひらの汗腺の状態を記録されていました。手のひらの汗腺はストレスを受けたときに開きます。私たちが緊張したり不安になったりすると手のひらが湿っぽくなるのもそのような理由です(だから嘘発見器に利用されています)。

 そして、このポリグラフの記録からわかった発見があります。それは、

  • 10枚を引いた時点で、多くの人は赤カードに対してストレス反応を示すようになり、手のひらが徐々に湿っぽくなった。

  • それだけでなく、ストレス反応を示すようになった頃から、被験者の行動にも変化が現れるようになった。彼らは次第に青カードを選ぶようになっていった。

 つまり、50枚目で「どうやら赤いカードは良くない気がする」と直感を感じ始めるより、さらに40枚も早く(10枚目で!)体は反応して、思考にも影響を及ぼすようになっていたわけです。言語化して説明できるようになるのが80枚目であることを考えると、10枚目で体がストレスを感じ始めるのがいかに早いかがわかります。

なんで直感は言葉で説明できないのかが科学でわかった。

 前述の書籍では、この直感を神経科学の側面から紹介・解説しています。曰く、

  • 「潜在学習」と「直感」の神経解剖学的基盤は、大脳基底核である。

  • 大脳基底核は、私たちのやることなすことすべてを観察して、そこから法則を見いだしてくれる(まさに今回の赤青カード実験に活躍した部位)。私たちの人生の智慧は、大脳基底核にしまわれる。

  • 大脳基底核は、言語を司る大脳皮質とまったく繋がっていない。つまり大脳基底核にしまわれているものを言語化できない。言葉にならない。

  • しかし大脳基底核は、情動中枢や内臓と繋がっている。そのため気持ちという形で私たちに語りかけてくる。「これは正しい」「これは間違っている」ということを感覚として伝えてくる。

 つまり、脳の仕組みとして「直感は言葉にできない」というシステムだったわけです。

 なにかに気づいたり、見抜いたり、発見したりしても「ここには何かあるぞ!」「それは間違っているぞ!」という感覚でしか脳は私たちに伝えることができません。

「それ、直感だろ? いいかげんなこと言うな」

 と言われることがあったとしても、実はそれはいい加減なことではなくて、膨大な情報を処理している脳が、言葉で伝えるより先にあなたに答えを伝えている結果だというわけです。


「ここには何かある」

「違和感を感じる」

「こうしたほうがいい気がする」

 このような直感は、とても現実的な感覚で、だからこそ「第六感」というのもあながち的外れな表現ではないようにも思えます。


直感を磨くためのトレーニング

 アイオワ大学の実験からもわかるように、私たちがなにかを理解して、その事実を人に言葉で説明できるようになるのは最終段階です。その段階より遙かに早く、というか信じられないほどの速度で、実は脳は異変に気づいていて、すでに私たちに信号を送っています。

 そして今回の実験では、早く直感に気づいたほうが、手にいれられる金額も多くなっていったわけです。

 つまり、もし直感が鋭くなれば──私たちが体のストレス反応により早く気づくようになれば──私たちは危機を回避しやすくなり、好ましい結果を手にいれやすくなるというわけです。

 そのためには自分自身の体に、もっと敏感になる必要があります。

 具体的には、まず最初に「平常時の肉体の感覚」を知っておく必要があります。

 いわばX軸とY軸の交差する「0ポイント」がどのような状態なのかを詳しく把握しておきます。そうすれば、体にわずかな変化が起きて0ポイントからズレを感じたときに「何かに体が反応している」と気づきやすくなります。

 また、0ポイントから10変化したときに初めて気づくのか、0.5変化したときに気づけるのかによっても、直感の拾い方が変わってきます。「いかに小さな変化に気づけるか」を別の言い方で表現すれば「どうやって感覚の解像度を上げるか」が、直感への気づきやすさとなってきます。

 平常時の0ポイントを知る。

 小さな変化に気づけるよう、感覚解像度を上げる。

 この2点に効くトレーニングがマインドフルネスの基礎技術とも言える「ボディスキャン」です。前回の記事で詳しくご紹介したボディスキャンの方法が、とても有効です。


 感覚は筋肉と同じで、使っていないと衰えていきます。しかもスマホを持ち歩くようになった現代人の私たちは、外部からの情報が多すぎて、自分の内側の感覚に注意を向ける時間をほとんど持ちません。数万年前は歩いて移動したり、夜は焚き火を囲んだりして、体の状態や心の状態を観察する時間が多くありました。でも現代ではそんな暇、余裕がありません。感覚は衰えていく一方です。

 しかしだからこそ、すこしトレーニングをするだけでも、感覚の変化を感じやすくなっていきます。ぜひ、2022年はボディスキャンを習慣化して、直感力を磨いていきましょう。青赤カードの結果のように、好ましい結果を積み上げていくための第一歩になるかと思います。


 今日は直感力を磨くトレーニングとしてのボディスキャンをご紹介しました。

 ただ、ボディスキャンは人によっては「難しい」と感じる人が多いのも事実です。明日はそんなボディスキャンのコツについてご紹介したいと思います。もしこの記事が参考になったり、気に入って頂けた方はいいね!フォローを頂けますと励みになります。



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