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あの夏へ


あの夏へ / 久石譲

僕には、この曲を聴くと必ず思い出す人がいる。


冷めてしまった。
本当はずっと好きでいたかった。
君で最後にしたかった。
ごめんね。

君と会ったのは6月の初め、大好きだった人がいなくなって、寂しくなった。

「話したい人、DMに来ませんか?」

とつぶやいた。寂しかった。

そしたら君が来たんだ。

「君、本当は私みたいな人間と話したかったでしょ?」

おもしれー女、そう思った。
そこから、インスタ、LINEを交換して、毎日電話するようになった。
そして、奇しくも地元が同じだったので、夏休みの帰省のタイミングで会うことになった。

そこで会った。第一印象、背が高いな、と思った。
その後、一悶着あってLINEをブロックされてしまった。
そこで冷めた。

そこから、僕の誕生日に水族館に行った。
その途中、君の最寄りに降りた。
君と駅の周りをぶらぶらしている時、君はストリートピアノに向かった。
君は長年ピアノをやっていた。僕はそれを知っていた。ピアノクラシックの話で盛り上がることもあった。
そして君がイスに座る。
君はあの夏へ、を弾いた。
君が第一音を鳴らす、僕もこの曲は好きだった。
夏のノスタルジーを感じさせるこの曲、夏の終わりにぴったりだった。
ピアノを弾く君は好きだった。
演奏が終わり、電車に揺られ、水族館に行く。
楽しかったけど、辛かった。
僕はもうその時点で冷めていた。
ごめん。という感情しか湧かなかった。

その次の日、僕はLINEを返すことができなかった。
そして君と夜に電話する時、君はこう言ったね。

「君、もう冷めたでしょ?」

わかりやすい。
僕はその日嘘で取り繕われた言葉で半日経ってLINEを返した。
いつもならすぐに返信するのに。

「じゃあ、もう、終わりにしますか?」

僕は、その言葉にはい、と返事をした。

「明日会って、全て終わりにしよう。」

僕はそう言った。

次の日、君の運転で海に行った。
お互い、言いたいことを言ってすっきりした。
そのせいか、すごく楽しかった。

「何でこんなに楽しいんだろう、こうやって関われたらよかったね。」

お互いそう思っていた。

そして、地元では珍しい快晴で猛暑の中、君と海を楽しんだ。
10年ぶりくらいの海だった。
お互い、すごいはしゃいだ。
本当に、この状態で関われたらよかったな、と思った。

そして、お別れの時間は来る。
君は僕と過ごした時間の日記という特級呪物を渡したね。
君は泣いていたね、ごめんね。
君の人生に、もう関われなくてごめんね。
さよなら、少しの間だったけど、好きでいてくれてありがとう。

またこうやって呪いを1つ1つ増やしていくんだ。


君と過ごした、あの夏へ。

君が奏でた、あの夏へ。

君が自分のことを覚えていてほしい、という人間なのは分かっているのに、この曲を聴く限り君を思い出してしまうのは癪で仕方ないよ。


まあ、幸せに過ごしてくれればそれでいいかな。


元気でね。ありがとう。


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