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スケッチ1 - 死の荒野
男には死が近づいていた。<風の街>からの放逐より一ヶ月も経ってはいなかったが、死の荒野とそこに吹く風は、かつてはたくましかった男の身体を着実に蝕んでいた。
<風の街>。狂った風を生み、またその風自身から住民を守る<塔>が立ち並ぶ、最後の文明都市。そこから拒絶されたならば、まともな生は送れない。
一体どこで間違えたのだろう。結局愚かな自分が騙されただけなのだろうか。ただ男は<芯>が見たかっ
スケッチ2 - ネクタイ
トルギーは<背広組>のうちの一人であった。滅びゆく文明の最後の守り手であるここ<風の街>にて、日常のさまざまな儀式を円滑に執り行い、また後世に伝えていくことが彼らの役目であった。トルギーは大変優秀な<背広組>だった。彼の着ているスーツや革靴、それにブリーフケースは十世代前から伝わるものと言われており、家柄も申し分なかった。
彼の転落はある朝から始まった。始まりはいつもの通勤経路である、百九十
スケッチ3 - <管理組合>
「野良に食料を盗まれた!」
そこで<管理組合>だ。
「ああ!発狂者が人を殺してまわっている!」
そこで<管理組合>だ。
<管理組合>とは<風の街>警察組織と協調関係にあるとされる自警団である。彼らの祖先はかつて地下に住んでいた武闘派の<もぐら>達のある一団だったと言われていて、そのせいか彼らの拠点は代々<風の街>警察ビルの地下一階から地下三階を占めており、彼らはそこで生活していた
【完全版】<風の街>と<甲冑の男達>
-1-〈ジャケット〉は落下した。落下した。身をよじり、手足をひねり、宙に踊る。〈ジャケット〉は落下し続けた。
取り囲む色はめまぐるしく変わっていく。あれはガラスの反射だろう。今のは雨に濡れた電線のきらめきだ。狂った風に吹かれつつビル塔の隙間を落ち続ける。視界は狭まり耳鳴りは高く、遠くなっていく。
こんなことになってしまったのはいつのことだったろう。もはや思い出せない。おれの生には終わりは無
【感想文】ある作品の読書体験について
ぶっちゃけてしまうと、わたしは基本的に小説の筋書きにあまり興味がない(もちろん例外はある。ニンジャスレイヤーがその好例で、あれは物語がどういう展開を迎えるのかを楽しみに読んでいる)。
ということでわたしが小説のたぐいを読むときに気にかけているのは、もっぱら文章表現の美しさや巧みさ、そしてそこから得られる快さである。
読書というのは読み・解釈するという能動的な行為であると同時に、書き手に与えられる
【プレ版】<風の街>と<甲冑の男達>-1
-1-
<ジャケット>は落下した。落下した。身をよじり、手足をひねり、宙に踊る。<ジャケット>は落下し続けた。
取り囲む色はめまぐるしく変わっていく。あれはガラスの反射だろう。今のは雨に濡れた電線のきらめきだ。狂った風に吹かれつつビル塔の隙間を落ち続ける。視界は狭まり耳鳴りは高く、遠くなっていく。
こんなことになってしまったのはいつのことだったろう。もはや思い出せない。おれの生には終わり
【プレ版】<風の街>と<甲冑の男達>-2
その1
-4- チグイの死体の両脇には二人の<甲冑の男達>が椅子に座って彼らを待っていた。ひとりは大柄で、無骨な鎧に牛頭の兜を被っており、もうひとりは鳥の意匠を凝らした華麗な甲冑をその身に纏っていた。彼らの名はそれぞれ、<ブルヘッド>と<ホークムーン>といった。いずれの鎧も<ジャケット>と同じく、すべてがクロームで出来ていた。
「<ジャケット>君。それにシュニチ君だったかな。まあ中に入りたま
【プレ版】<風の街>と<甲冑の男達>-3
その2
-5-
「わかるんですよ」
チグイは自分の胸を指し、目を覚ました<ジャケット>に向かって言った。
「これがあるとね。<ジャケット>さんの居場所が。なにせ本来は<ジャケット>さんのものですから。しかも絶えずこいつから僕の脳に<ジャケット>さんの元に戻れ、戻れと命令が来るんです。これがまたうるさくて思わず気が狂いそうに……おっと! <ジャケット>さん! 落ち着いてください! 第三
【プレ版】<風の街>と<甲冑の男達>-4<終>
その3
-6- 「<ジャケット>」
蚤の市の喧騒越しに<ブルヘッド>は言った。
「お前には告げたはずだ。<名刺>を探すのをやめるようにと。<ホークムーン>とお前を争わせるわけにはいかなかったからだ。だがここに至ってはもはや遅い。いっそあの時無力化しておけば良かったか。お前は優秀な<甲冑の男達>だったのに。惜しいことだ。そしてチグイだったか。もどきとは言えお前を殺すことは出来ないようだ。な