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【詩】分岐点

土曜日の帰り道
小学校の前の下り坂
車椅子を押している手が
わざと離され
やめて! 危ない!
と叫ぶわたしと
誰にもコントロールされず
坂道を下っていく車椅子と
手を離したまま
にやにや併走する鬼畜

あのとき……と
三十年後のわたしは夢想する

あのとき
脇道からトラックが曲がって来て
慌てた鬼畜が車椅子をつかもうとしても
もう間に合わず
わたしは手足をもがれ
顔も腹も踏み潰されて
飛び散っていたなら
わたしは人生に倦むこともなかった
そして鬼畜は
生きたまま
人生が滅茶苦茶になるはずだった

夢想は夢想であり
現実は現実であり
トラックは現われず
わたしは生き延びて
人生に倦んでいる

そして鬼畜は
何ひとつ罰せられず
人生が滅茶苦茶になることもなく
にやにやと生きている
 



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