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【詩】三月のリボン

三月、高校の体育館
舞台に向かって並ぶ卒業生と、その後ろ姿を眺めていたわたしたち

左斜め前方の、黒い学ランの男子席で
ひとり、白いレースの長いリボンが光を放っていた

ハーフアップの髪に結ばれた、白いレースの長いリボンは
女子の枠に入れられた人たちでさえ、もう髪を飾るためには使わない
けれど、卒園式や小学校の卒業式では、その人にはきっと許されなかっただろう
割り当てられた性別には、ふさわしくないと見なされるから

そのリボンは、宣言なのか矜持なのか、覚悟なのかお守りなのか
その先輩の正しい代名詞が、sheなのかheなのかtheyなのか
わたしは知らなかったし、25年以上が経ったいまも知らないままだ
けれど、白いリボンはきっと、その人の晴れの日にふさわしいものだった

外へ出れば、まだ冬の名残のあるやわい日差しの中で
その白いレースのリボンはいっそう輝いたことだろう

誰もが、生まれさせられた瞬間にそれぞれの檻を与えられる世で
卒業が、檻からの卒業であったなら
春の風にリボンがほどけて宙を舞っても
手を伸ばせば、ひらひらと道を示してくれるだろう

三月、それぞれの檻の鍵を軽やかに壊すような
それぞれの、白いレースのリボンがあればいい
 



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