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【取材編①】読者の想定を超えるコンテンツをつくるための「取材準備」



※このnoteでは、インタビュー記事や書籍の制作を前提にしています。

相手の情報を調べるだけでは不十分

今回は、「取材編」の1回目として、取材の事前準備についてお話しします。

編集者・ライターはみんな、「事前の下調べが大事」だと言います。相手が著者であれば著書を読む。ネット記事にも目を通す。さらに所属している組織のウェブサイト、ブログ、SNSなど、集められる情報はすべてチェックする。「先入観を持ちたくないので、事前に相手のことは調べません」という人もいますが、これは問題外ですね。

このように、「相手の情報(=事実)」を調べておくことは、もちろん必須です。そのうえで、より価値のあるコンテンツを引き出すために大事なのは、「仮説」です。

私が初めて入った出版社では、月刊誌をつくっていました。「生きる意味を深耕する」といった超固いコンセプトで、著名人へのインタビュー記事が並ぶ、文字だらけの雑誌です。ここでの仕事がとにかく大変でした。

それぞれの編集者は、月に2~3本の記事を担当します(外部のライターは入れなかったので、実質的には記者です)。それぞれ、4000字から多くても1万字くらい。いま考えると、分量としては厳しい仕事ではありません。

ただし、企画・取材・ライティングといった一連の過程すべてにおいて、ものすごく高いレベルを求められました。正直、いま私が仕事で使っているスキルのほとんどは、ここで学んだことの応用に過ぎません。

面白い話を聞けそうな人かどうか


最初に毎号の特集テーマに合わせて取材相手を探すのですが、それがむずかしい。例えば「宇宙」がテーマであれば、「宇宙というテーマで、生きる意味を深耕する話を聞ける相手」を探すわけです。

まず、良さそうだなという人を探して(実際には普段から多方面に情報収集をしています)、著書や記事、動画などを見ます。そのうえで、テーマに合わせてどんな話が聞けそうかを考えます。

その結果、「あまり面白い話は聞けなさそう……」ということもあります。時間を掛けて探しているので、そのまま進めたくなりますが、事前に「面白そう!」という確信を持てない限り、まず良い記事にはなりません。思い切って諦めて、また別の人を探します。

そうして自分なりに候補を決めて、編集長に提案します。そこでOKとなればいいのですが、通らなければまた探さなければいけません。毎月の締めきりは決まっているので、ここを早く通過しないといけない。慣れてくると、ある程度の情報量でコンテンツの深さを測る思考のようなものが身に付きます。「この人有名だけど、それほど深い話は聞けそうだな」「この人やっていることはマイナーだけど、めちゃくちゃ言葉持っていそうだな」ということがわかるようになります。

次に、その候補の方へオファーします。ワード1枚に、雑誌のコンセプト、今号のテーマ、記事の仮タイトル、質問案、それに「なぜこの内容の記事をつくりたいのか」「なぜあなたなのか」を書きます。

これを考えるのにも数日はかかります。相手はみなさん忙しい人ばかりですから、協力してもらうためには、そのテーマに共感し、「これなら取材を受けてもいい」と思ってもらわなければいけない。編集部の先輩は「依頼文は相手へのラブレターだと思って書きなさい」と教えてくれました。

これも編集長のチェックがあり、中途半端なものであれば差し戻しです。その壁も乗り越えて、ようやくオファー。相手が引き受けてくれればいいのですが、断られることもあります。すると、また候補者探しに後戻りです。

想像していない答えを引き出す質問


晴れて取材が決まったら、質問案を考えます。これもとにかく難しい。仮タイトルはもちろん、記事になったことを想定して、リード、見出しまで書きます。話の順番を想定して、その流れに沿って質問案を構成します。

そしてまた編集長のチェックを受けるのですが、相手の著書や記事に書かれていること(=いままでに相手がどこかで話していること)があれば、すぐにダメ出しされます。私たちの雑誌の主な読者は、経営者や教師、士業など深い知識を持つ方々でした。「読者を舐めるな。読者が知らない内容でなければ、俺たちが書く意味はない」と教えられました。

新しいコンテンツを引き出すためには、冒頭に書いたように相手の著書や記事など、インプットできる情報はすべていれておくことが大前提です。そのうえで「仮説」を考えます。

例えば、宇宙物理学者に「宇宙物理学の楽しさ」を聞いても、これまでにさんざん答えてきたことでしょう(そうした質問が必要な媒体もあると思います)。型通りの答えしか返ってこないはずです。その奥を聞く必要があります。

「ご著書で、『宇宙のロマンを解き明かしていくのが楽しい』とおっしゃっています。わからないものを理解することの素晴らしさについてのお話だと思いますが、学問の本質はそこにあるとお考えでしょうか」

こう聞いて、「その通りです。しかし、その楽しさを学校では教えてくれない――」と広がることもあれば、「いや、そんなことはありません」となることもあります。間違っていることは、問題ではありません。むしろ、合っていることのほうが危険です。仮説が合っているということは、自分の想像を超えない(=読者も想像している)内容だということですから。

間違っているのであれば、同じレイヤーで別の答えを教えてくれます。「いや、そんなことはありません。学問の本質はわからないことをわかることではなくて、わかろうとする過程にあるのです」といった答えになるかもしれません。少なくとも、「いや、単に楽しいからです」といった答えは返ってこないでしょう。深い仮説は、深い答えを連れて来てくれます(質問項目の考え方は別記事で詳しく書きます)。

あらゆる状況を想定して準備する


こうした質問項目を、1時間の取材であれば30項目は考えていきます。ひとつ質問をすれば1時間ずっと話す人もいますが、必要最低限のことしか答えない人もいます。ほとんどの場合、初対面の相手への取材でどんなタイプかもわからないので、多く準備しておくことは大切です。

その上で、取材がどう進むか、考え得る仮説をすべて立てて準備します。

「絶対に聞くこと」「次に聞きたいこと」のように優先順位を決める。質問の答えがAの場合はこの質問に、Bの場合はこちらに続ける。ここで深い答えが聞けなければ、同じ内容を別の切り口で聞いてみる。想定していた方向性で盛り上がらない場合は、別の流れに切り替える。一つ目の質問はアイスブレイクから入るパターンと、核心から入るパターンを考えておいて、相手の雰囲気に合わせて選択する――。質問項目をすべて見返しながら実際の取材をイメージし、あらゆる可能性に対応できるようにします。

そして、なんと、取材本番では事前に準備した質問項目を見てはいけませんでした。質問を考えているところまでは、自分の頭の中で予想できていることです。当然、読者も予想できること。提供すべきなのは、そのさらに奥にあります。

それでは、まだ世の中にない、価値あるコンテンツを引き出すためには、どのように取材をすればいいのか。以降の記事で書いていく予定です。

まとめ


・取材準備で相手の情報を集めるのは当たり前
・新しいコンテンツを引き出すためには「仮説」が大事
・仮説が合っていることがいいわけではない


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