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20代限界女がTHE YELLOW MONKEYに救われた話

「本当は働いてないんだ。」
6年間付き合っていた恋人が嘘をついていた。
2年間も。
2年間て3分の1じゃないか。

普通キレたり泣いたりするものかと思っていたんだけど、こういう時人間は案外言葉が出ないものなんだなと思った。
なんで気付かなかったんだろう。
2年間わたしに仕事をしてるフリをし続けるのはどんな気持ちだったんだろう。
いろんな思いが我先にと渋滞して、出口が詰まってしまう感覚。
6年間は呆気なく終わってしまった。


彼とは大学のバンドサークルで出会った。
色白で身体が弱く華奢で、新潟から上京したての男の子。
日常生活に関わることは全て苦手だったけど、ギターだけは弾けた。
ほぼ一度聴いただけで彼は箸を動かすより容易く音を操り、自由自在だった。
練習しているところはあまりみたことがなかったが、寝る時以外は常に音楽を聴いていた。
あんなに上手いのに、弾くより聴く方が好きだといつも言っていた。
でも彼の目に光が入るのは、ステージでギターを弾いている時だけに見えた。

天才肌だけど、不器用で純粋。
東京生まれ東京育ちの自分にはなんだかとても綺麗な人に見えた。
出会ってから彼に惹かれるまで時間はかからなかった。

大学を卒業すると同時に、彼は人前でギターを弾くことをやめてしまった。
わたしは魔法が解けていくのを感じていた。
彼の不器用な内面も愛しいと思っていたけれど、就職して新しい環境に慣れることに必死でケアする余裕が無かった。
ケアすることでわたし自身癒されていたけれど、それ以上にギターを弾いている彼を見ることで優越感を得てバランスを取っていたのかもしれない。
今思うとこの時点で危うい依存関係ではあった。

そしてこの告白。
好きだったけど、さすがに決定打だった。
彼も同じ気持ちだったのだろう。
もしあの時きちんと向き合っていれば。

彼に教えてもらったたくさんのバンド。
一緒に聴いたたくさんの曲。
弾いてもらったたくさんのリフ。
それらが思い出に重なって、聴けなくなった。

数日後、わたしは福井に向かっていた。
THE YELLOW MONKEYのライブのためだ。
親にせがまれてだいぶ前にチケットとホテルまで取っていたためにキャンセルはしなかったが、正直気乗りがしなかった。
こんな気持ちで楽しめる気がしない。
最近音楽聴いてないしな。

5月だというのに灼熱の福井。
後悔半分と、まあ1人でうちにいてもな…という諦め半分の気持ちで着いたライブ会場は思った以上に小さく、イエローモンキー程のビッグネームもこんなところでやるんだ、と思った。
ーー客電がおちる。


怪しげなベースラインと心拍数を乱すドラム。
迫力が、音圧が凄い。
なんだこの粘り気のあるリズムは。
一気に引き込まれた。

そこへボーカルの吉井和哉が現れる。
ライトを手に持って客席に向けながら、まさにステージを徘徊しはじめる。
客席からでも伝わりすぎる、男でも女でもない怪しすぎるオーラ。なんだ?魔女か?
というかこれはテレビで見たことある吉井和哉じゃない顔をしている。
これがTHE YELLOW MONKEYのロビンの顔か。

続いてギターが鳴る。
ロビンの色気とはまた違う、太い芯のある色気のある音。
なんだか海外からやってきた、スケールのデカいバンドの音がする。
そしてなんなんだこの人の目は。

1曲目から濃すぎる。
再結成してから作った新しいアルバムに入っている曲らしい。

立て続けに2曲目のBURN。あ、これ知ってる。
ギター、ベース、ドラムが一気に鳴る。
これもし音が可視化できたらステージからとんでもない波動砲みたいなの出てたな、くらいの音圧を浴びて、2曲目から客席が沸き立つ。
オリエンタルなノリと歌謡曲っぽい詞、ロビンの艶のある動きはまさしくイエローモンキーらしい曲。
だけど生でくらうとトリップ度が違う。
ああ、来て良かったかも。

ここからあんまり記憶がない。

東京に帰ってきて、わたしはイエローモンキーのことばかり考えていた。

かっこよかった。
なんだかもっと自分の為に生きよう。
あんな50代もいるんだし。

悲しかった日々も客観的にみられるようになっていた。

生活を変えるために、実家を出て一人暮らしをはじめた。
香水をつけるようになり、
文章を書くようになった。
また楽器を弾くようになった。

イエローモンキーの色気と説得力はメンバーの美学にあるようだ。
身に付けるものや行動の一つ一つに意味やルーツを大事にしていて、さらにメンバーそれぞれが経た経験というフィルターを通して、惜しげもなくありのままの音や表情として晒す。
特に吉井和哉は自分の精神状態をありのまま歌詞にする。
そうでしか書けないのだと思う。

ありのままの色気。
頂点、休止、解散を経ても途切れなかった強い絆と経験に裏付けされた音。
こんなに大人のバンドが2度目の青春を楽しんでいる。
そして、わたしもそうなりたいと思った。


2ヶ月後、彼から連絡がきた。
新潟へ帰ることにしたという。
きちんと別れの挨拶をしに、新宿で待ち合わせた。
久しぶりに見る彼は、2ヵ月前の疲れた目より幾分すっきりして見えた。
お互い自分為にもっと上手く生きていこう。
笑顔で別れた。

なんだか、大人になった。
青春が終わった気がした。

誰もいない一人暮らしの家に帰り着いて、
電気をつける。
音楽を聴こう。


「SO YOUNG」THE YELLOW MONKEY
誰にでもある青春 いつか忘れて 記憶中で死んでしまっても
あの頃僕らが信じたもの それはまぼろしじゃない


偶然に流れた曲に、
あの時流せなかった涙が止まらなかった。

SO YOUNGはバンドの冬のきっかけとなる非常に過酷なツアー中に作られた曲だという。

大人になるために、いつか2度目の青春を迎えるために全てが意味のある出来事だったのかもしれない。
励ましたりしてくれる曲じゃないけれど、
そっと側にいてくれるだけで救われる気持ちだった。
音楽で辛い思いもしたけど、音楽に救われるってことも本当にあるんだな。


あなたたちのような大人になるために。

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