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【55】個人ブログは、いかに「収益化」を行い、「ニュースメディア」へと変貌したか

9月の頭から、弊社が運営するBooks&Appsの記事をYahooニュースへ配信開始した。

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内容はどちらで見てもほぼ同じであるが、より一般向けのyahooニュースの読者層と、リテラシーが高めの現在の読者層は全く異なると推測される。

したがって、読者層を広げること、新規の訪問者から「メディア」としての認識を受けるためには有効だろう。

いずれにせよ、今後の読者層の動きは注視している。



とはいえ、Books&Appsは、最初から「メディア」を意識して立ち上げたわけではなかった。

Books&Appsは2013年の2月に、私が見よう見まねでワードプレスをレンタルサーバーにインストールし、独自ドメインを取得して作成した個人ブログがその出自だ。

別の記事にて紹介しているが、最初の半年程度は、1日に100名程度のアクセスもなかったので、外見をあまりに気にする必要はなく、「とにかく発信することが大事」という方針で運営を行った。

(参照:【3】「ゼロ」→「100万PV」に成長する過程で、webメディアがクリアしなければならない、3つの関門。(前編)


ただ、ビューが増えるにつれ、記事の内容のみならず、特に運営面でも「個人サイト」から「メディア」への転換が必要になった。

本記事では、そのサイト運営の方針の推移と、メディアとしての収益化の困難、そして記事作成の方向性の変遷について、書いてみたい。


第一期:「立ち上げ」の運営ルール

さて「立ち上げ」期にやることは以下の2つ。

一つはサイトのレイアウトを完成させること。
二つ目は、コンテンツを継続して作成することだ。


サイトの見た目については、基本的に他のブログサービスと同じにすることを目指した。

つまり「操作性」を重視するならば、皆が見慣れた形にする必要があり、独自性を追求しないのが一番だ。

当時はお世辞にも洗練されているとは言えず、基本のテンプレートそのまま利用した。(参照:https://web.archive.org/web/*/blog.tinect.jp

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SNSからの流入を重視するのであれば、スマートフォン対応は重要である。スマートフォンの画面は非常に小さいので、余計な要素は出来得る限り廃する。

現在でも基本的な構成要素は変化しておらず、グローバルメニュー、記事タイトル、検索窓、SNSボタン、そして記事のランキングを見ることができれば十分だと考えた。


むしろ問題は、コンテンツ作成の方だ。

ルールはシンプルな方が良いし、当時ブログで成功するためには
「毎日更新」は当たり前とされていたから、それに習い、以下のように定めた。

ルール1. 毎日1記事、必ずアップする

個人ブログの運営においては、ライターは私一人であるから、私が守るルールを作れば良いのだが、1日1記事を書く行為は、かなりきつい。

日曜日以外は必ず更新すると決めて、それを守るようにしたので、寝る時間を削って記事を書いていた。


ただ、当時の記事は、文字数にして約2000字前後だったので、それほど長い記事ではない。おそらく本職のライターだったら楽にこなせるだろう。

しかし私は素人であり「なにを書いたらよいか」の指針がない中でひたすら書き続けるのはなかなかの苦行だった。

だが、この苦行があとになって貴重な知見を生み出す。


第二期:「毎日更新」するための環境づくり

というのも、毎日更新するだけで相当疲弊していた私は
「記事を楽に生み出すにはどうしたらよいか」
を真剣に考えるようになったからだ。つまり「生産性向上」を図った。


ピーター・ドラッカーによれば、生産性向上の鍵は時間の使い方にある。

そこで、どこを改善すると最大の成果が得られるのかを突き止めるため、記事作成の時間を毎回、計測し、改善ポイントを探ることにした。


「時間を測るのは面倒だなあ……」と思う方もいるかも知れないが、これはツールをつかって解決した。

私は当時から今まで、ずっとtoodledoというタスク管理ソフトをつかっているが、これにはTimer機能がついており、タスクごとに時間を計測できる。

タスク開始時にタイマーを開始し、タスクが終了すればタイマーを止めて時間を記録する。

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このやり方で2週間ほど時間を計測した結果、時間を最もつかうのは
「書き始めるまで」の時間、つまり「テーマを決める」ための時間
だった。

逆に、一旦書き始めてしまえば、あとはそれほど苦労せずとも、一応形にはなる。

つまり「テーマ」を常に用意できれば、記事を書くスピードを格段に上げることができるはずだ。


その解決策として、ベタだが「ネタ帳」を作ることにした。

このネタ帳作りには、クラウドサービスであるEvernoteを採用した。どの端末からでもネタをクリップでき、メモとしても便利だったからだ。

これは当時のEvernoteのタイトルのスクリーンショットだ。
ひとまず読んだ記事や、思いついたことを何でも良いので放り込んである。

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その結果、1日に大体5〜10くらいのペースで、ノートが増えた。


一見するとごちゃごちゃ詰め込まれているように見えるが、これが後からかなり役に立つ。

なぜかというと、それは「検索」できるからだ。
例えばあとから「副業」と打ち込んで検索すると、自分が興味を持ったテーマや記事が、一気に表示される。

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これを見ていくだけでも、どの文献を引けばよいかなどの情報が出てくるので、記事のネタ探しの時間を大幅に短縮できる。

この結果、記事の生産能力は大幅に向上し、「1日1記事」のペースが苦にならなくなってきたのが、だいたい運営を開始してから半年くらいの間までに起きたことだ。


第三期:「読まれる記事をつくる」ための環境づくり

ところがそうして半年も書き続けてくると、「読まれる記事」と「読まれない記事」の差異はかなり明確になってくる。

インターネットは極端なので、「読まれるもの」と「読まれないもの」とでは10倍も100倍もアクセスに開きがある。

ブログであっても、どうせなら読まれるものを作らなければならない。


そう考えた結果、私は「比較的よく読まれた = SNSで多く「いいね!」がついた記事」の特性を比較した。

その結果得られたのが、次の知見であり、ルールである。

ルール2. 「一般とは異なる視点」を提供する
ルール3. 「理論」より「体験」、「建前」より「本音」、「正論」より「実践」、「聞きかじり」ではなく「現場」を書く。
ルール4. 名指しでの批判は禁止
ルール5. 著者の意見表明をできうる限り避け、結論は読者に委ねる

これは前にも書いたが、私が学生時代に愛読していた「ムーノーローカル」というサイトの作り方に記述してあることからかなり影響を受けている。


2.はいわゆる「逆張り」である。逆張りは目を引くし、答えが知りたくなるのでクリック率が高い。

3.は読者が物語性と共感を記事に求めるので、「体験」「本音」「実践」「現場」が題材になっている記事のSNSでのシェア率が高いのである。

4.名指しでの批判は、SNS上で「いいね」を押しづらい。

5.著者の意見の表明、つまり「〜すべき」「〜でなければならない」「が正しい」といったものは、読者を遠ざけるので、出来得る限り事実や他者の口を借りる言い方を取ると、ビューが取れやすい。


この5つのルールと、Evernoteのネタ帳により、徐々に「質が高い記事」=「読まれる記事」の量産が可能となった。

メディアの素地が形成されたのである。


第四期:「寄稿可能な記事」を作るためのルール作り

ところが運営を初めて1年以上経ち、少しずつ改善を進めているものの
「アクセスが伸びない」という状況に陥る。

この辺の事情も以下の記事に詳しいが、要は「友達」という閉じたネットワークの中でしか読まれていないことが原因だった。

(参照:【3】「ゼロ」→「100万PV」に成長する過程で、webメディアがクリアしなければならない、3つの関門。(前編)


ここに来て、私は拡散可能なネットワークを広げるため、外部媒体に寄稿を始めることにした。

外部媒体への寄稿から自分自身のネットワークを広げるには、それなりの頻度で寄稿する必要があるが、これは「毎日1記事書く」ことが普通に回せる状態があってのことだった。


さらに、ここで我々は一つ重要な決断をしている。
それは「外部寄稿する媒体」に合わせて、自分のところでもできるだけ同じような記事を書くようにしたのだ。

これは、外部から来た人が、Books&Appsを見て戸惑わずに、ファンになっていただくための配慮だった。


実際、この頃の寄稿先は、LIGブログと、ハフィントンポストであったが、彼らはいずれもビジネスネタが多く読まれていたため、この頃からBooks&Appsにも目立ってビジネスのネタが増えていく。

いまでこそBooks&Appsは「ビジネスパーソンのためのメディア」と銘打っているが、当時私が書いていたネタはビジネスだけではなく、書評やガジェット、ときには科学技術のネタなど、ネタは多岐にわたっていた。


しかし、このあたりを境に読者層を明確に「ビジネスパーソン」と定義し、テーマを絞り込んでいった。

もっと単純に言うと「バズるネタ」に特化した。

つまり、Books&Appsがビジネスパーソン向けメディアとなったのは、私の生産能力と、メディアのマーケティング活動の結果であり、「読まれないもの」を捨てていった結果でもある。

重要なのは「最初からターゲットを絞ってはいない」ということだ。
あまりも思いが強すぎたり、特定の目的に寄せすぎると、ビューを取ることが犠牲になる。

メディア運営は、ビューを取ってなんぼという側面が強く、「まずは色々と試す」ほうが、結果的に生き残りやすい。


また、このあたりから「寄稿」という性質上、コンプライアンスへの配慮を強くするようになる。

具体的には「文献」と「著作権」にかなり気を使うようになった。
当たり前なのだが、自分のところではなく他社のメディアに掲載する場合、後からの訂正が難しい。

そこで、文献は出来得る限り「書籍」や「官公庁」「大手メディア」に絞り、wikipediaや個人ブログからの引用は辞めた。

また、記事に掲載する画像や引用が著作権に抵触しないように利用することをルール化した。


第五期:「バズにより、止むに止まれぬ収益化の模索」

狙いはあたり、Books&Appsの記事は2014年5月に初の「バズ」を起こす。
その経緯は下の記事に詳しい。

【4】「ゼロ」→「100万PV」に成長する過程で、webメディアがクリアしなければならない、3つの関門。(後編)


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