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鏡の前で全裸になって体のあちこちに出来た赤紫色の痣を撫でる。何故だかとても綺麗に見え何かの証のように見える。

私は電車に乗って彼の家に向かっている。彼は15才年上の不動産関係の仕事をしている。私は近くのスーパーで明日の朝食の卵とパンを買って、マンションの階段を駆け上がる。扉を開けるとスパイスカレーのいい匂いがする。料理をしてる彼の背中に抱きついて太ったお腹をさする。料理が出来上がるまでに、私は掃除をしたり洗い物をして待っている。彼は料理が得意で、私は掃除が得意。2人ともロック音楽が好きで、部屋にはレッチリのボーカルの声が響いている。出来上がったカレーを2人で食べる。彼の料理を食べるたびに温かいものが体の奥に流れだす。お風呂上がりは、くだらないバラエティー番組を見て過ごす。笑いのツボも似ていて同じ所で爆笑する。
彼はいつも私を笑わしてくれる。2人で笑っている時、私は幸せで堪らない。ふいに抱きしめてキスをしてくれる。キスをしながら髪の毛をくしゃっと後ろにひっぱられるのが好き。
彼はベットの上で私を支配する事に性的に興奮する。私もSMの世界に興味を持ち、S Mショーを観にいったり新鮮な刺激に魅了された。私の中に眠る未開拓なマゾヒストな性癖を彼によって引き出されていく。いつまでも2人で快楽に溺れていたい。彼が喜ぶのなら、私は奴隷になろう。体も心も彼に支配されていたい。

夜の街、見上げると月が綺麗だけど星はあまり見えない。お酒が大好きな彼はよく飲みに連れていってくれる。薄暗い照明の光が、お酒をよりいっそう美味しそうに映す。バーテンダーとの話も面白い。お酒はよくわからないから、お任せして作ってもらう。大人の世界へはいつも彼が導いて開いてくれる。
帰り道は薄暗い商店街を手を繋いで歩く。のら猫が通りすぎる。
「猫、可愛いね」
私が、そう言って笑うと
「いつか、飼おう」
と、笑い返してくれる。
他愛もない会話をして、千鳥足で家路に着く。家に帰ってあついお茶でも飲もうと、水道の蛇口を捻る。やかんに水を入れていると、顔の右横を何かがかすめる。顔を右に向けると同時にガシャンと音が響き、ガラスの破片が飛び散る。目の前でコップが割れた。

「お前、さっき他の男に色目を使っていたやろ。淫乱女」
振り返ると目が釣り上がった彼が立っている。やばい、始まる。逃げようとすると髪を掴んで引きずり戻される。腕に太腿に、鋭い痛みが突き刺さる。恐怖で顔を上げられない。言葉は何も出てこない。彼の声が、腕が、凶器に変わる。うずくまって、ただ耐える。鈍い痛みの中、別れを想う。

彼は決まって後日、謝ってくる。痛みはなんですぐに消えてしまうんだろう?私はどうしても許してしまう。彼に会えないなんて、私の体はもう我慢できなくなっている。
仲直りのキスをして、服を脱がしてもらう。お気に入りの首輪を付けてもらう。胸の突起に彼の舌が触れるだけで、ビクビクと腰がひくついてしまう。体のあちこちを彼の舌が這う。熱くなった割れ目から愛液が溢れ出す。四つん這いにさせられ、ゆっくりと彼のものが入ってくる。私の唇からいやらしい声が漏れる。彼の手が、私の肉付きのいい尻をひっぱたく。そのたびに電流のような衝撃が体を走る。
彼の鋭い瞳が私の瞳を捉える。見つめ合ったまま首を締めら、何度も果てた。苦しくて嬉しくて涙が流れる。彼に抱きしめられたら胸の中で殴られた恐怖が消えていく。優しい彼の姿しか信じたくない。



痣は私の体に表れては消えて3年の月日があっという間に流れた。海が大好きな彼が、
「暑くて堪らないから海いくで」
と、私を連れ出した。波の音に沢山の人の笑い声。太陽の光が鬱陶しい程に眩しい。私は海なんて嫌いだったけど、彼と一緒だと楽しくて日焼けするのも忘れてしまう。彼に浮き輪に乗せられて波のリズムを感じている。いきなり浮き輪をひっくり返されて溺れそうになる。必死で泳いで海から這い上がる。遊び疲れて砂浜でぐったりしていると、火照った体に暖かい砂の感触と匂い。どんどんと体が砂に埋れていく。完全に砂に埋れた私の横で、彼は満足そうにビールを飲んで笑っている。
夕日を2人で眺めながら、海の家に移動して食事をした。海を見ながら食べる料理はより一層、美味しく感じる。店内は若い子が好きそうな音楽がやたらと大きくて、うるさい。
「そろそろ出ようか」
彼が席を立ち、私を抱き寄せようとした。彼の手がこちらに向かってくる。怖い。体が反応して勝手に震えてしまう。咄嗟に私はしゃがみ込んで顔を腕でガードするポーズを取っている。
「違う、抱きしめたかっただけやんか」
彼がそう言っても、私は裸足のまま走りだしていた。荷物も靴も放ったらかして。彼が追いかけてくる。それでも砂浜の上をただひたすら走り続ける。涙がどんどん溢れてくる。痛みが色鮮やかに蘇る。もう、戻れない。

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