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週末ビジネス分析(美容室編) #002

大学生の頃から通い続けている美容師さんがついに(といってもかなり前だけど)表参道にご自身のお店を出店されたみたいです
美容師なのに美容師らしくなくて、最近は髪を切ってもらいながら経営の難しさを聞かせてもらったり、他の美容室とは比べ物にならないくらい楽しい時間を過ごさせてもらっています
難しい部分があるとはいえ、行くたびに増す店内の賑わいがその経営の順調さを物語っているからさすがだ

前回記事に番号を振ったせいで2本目も書くよな?という自発的なプレッシャーがえぐかったので、今回は美容室を例にとってその売上高を推定してみようと思います

【売上高の推定】

サウナと同じというと大雑把かもしれないけど、店舗型のビジネスであることは間違いないので、その前提で売上構造をイメージします
美容室なので、主要な変数の内、①営業日数は300日(火曜を定休日とした概算値)、③座席数は4席、⑤営業時間は10時間(AM10時~PM8時)と仮定
場所は表参道で、男女比は男:女=2:8と女性客中心とします

・年商=①営業日数*日商
・日商=②客単価*客数
・客数=③キャパ(座席数)*回転数
・回転数=④稼働率*⑤営業時間/⑥滞在時間

頭の中

まずは、②客単価。HOT PEPPER Beautyなんかを参考に以下のようなメニューを想定。()内はメニュー間の選択率を示しています
メンズ専門店であれば全く異なりそうですが、表参道といえどメンズはカットのみがメインと思われるのでカット9割と仮定
また、女性向けメニューの印象としては、カットだけのメニューは珍しく、カラーかパーマはセットで選んでいるイメージ、かつ、カラー&パーマというダメージ与えまくりメニューの選択率が片方だけのメニューを超えることはないと思われるので、7:3としました
なお、パーマやカラーにはカット(や女性の場合はトリートメント)等を含んでいるため各メニューは排他的であるとし、そのほか個別的なメニューは外れ値として除外
また、本来は新規継続比がクーポン利用の有無等を通じて価格決定には重要な要素となりますが、この情報はかなり個別の状況に左右されるため、その影響は価格に織り込み済みと考えました。
先述した顧客の男女比より、全顧客の平均単価は丸めて16,000円と算出

男性向け【平均単価:7,800円】
・カット(90%):7,000円
・パーマ(10%):15,000円
女性向け【平均単価:18,000円】
・カラーorパーマ(70%):15,000円
・カラー&パーマ(30%):25,000円

HOT PEPPER Beautyy等より適当に

次に、④稼働率。大まかに、午前(10:00-12:30)、昼(12:30-15:00)、日中(15:00-17:30)、夕方(17:30-20:00)と2.5時間ごとの4ブロックに分割。これまでの経験を基にすると、午前は比較的空いており、日中は満席に近く、昼と夕方はその間という感じ。ここでは午前を50%、日中を100%、昼と夕方を75%とすると、加重平均を取った稼働率は3/4と算出

最後に、⑥滞在時間。但し、この時間は入店から退店までの時間を想定しており、お会計等も含めたグロスの時間をイメージ
各メニューの所要時間は下記のように仮定。男女比とプロダクトミックスは先述の通りのため、加重平均した滞在時間は2時間12分と算出。しかし、このままだと使い勝手が悪いため、差分をアイドルタイムとして、1顧客当たりの平均滞在時間を2.5時間と設定

・カット:1.5時間
・カラーorパーマ:2.5時間
・カラー&パーマ:3.5時間

体感値

以上を踏まえると、座席4席の美容室1店舗当たりの年商は約6,000万円と概算できる
年商5,760万円=営業日数300日*日商19.2万円
(日商19.2万円=客単価16,000円*キャパ4人*3回転)

【売上高の検証&費用の推定】

何となくお気づきの通り、席数に比例するPLモデルとなっているため、美容室一般の売上高とは言い切れないものの、前回同様に上場企業のデータを用いて検証してみたいと思います
費用構造については、美容師さんはその多くが歩合で働いているため、費用のほとんどは歩合率に応じた人件費と推察される。あと掛かってくるのは賃料とその他薬剤等の原材料費、インターネットを含むインフラ費位で、基本的には大規模店舗にするほど固定費が分散されマージンが上がるビジネスと推測はできるが、一応確認してみる

例にとったのは「株式会社AB&Company(9251)」(以下「ABC」とする)
直営とフランチャイズを駆使して日本国内を中心に美容室を展開するグロース上場の企業

直近年度(23/10期)の連結売上高は約168億円
但し、前回同様にこの会社もフランチャイズ制度を導入していることから、分析の観点からは直営店からの売上とフランチャイズからのロイヤリティ収入を分ける必要がある(厳密にはデザイン事業もあるため、こちらの事業からの売上高も控除する必要あり)
セグメント別の売上高を見ると、フランチャイズからの収入が約13億円、デザイン事業からの売上高が約16億円、直営店からの売上高が約139億円となっている
また、23年10月末時点の店舗数は直営405店、フランチャイズ519店の計924店舗である。したがって直営店の店舗当たりの年商は約3,400万円(=139億円/405店)と求められる

そこそこ乖離があるように見えるので、かなり詳細に開示してくれているABCのデータを基に調整を加えてみる。調整項目は(A)顧客単価、(B)店舗当たりの年間来客数の二つ

(A)顧客単価:
モデルケースでは、加重平均を取って16,000円としていた一方で、ABCの開示を見ると顧客単価は6,000円弱となっている

(B)店舗当たり年間来客数:
モデルケースでは、300営業日×4席×3回転=3,600人と推計できる。他方、ABCの直営店は、総来客数239万人/直営店数405店=約6,000人となっている

開示資料等

(A)(B)を基に、モデルケースで求めた年商5,760万円(約6,000万円)に比率で調整を加えると、5,760万円×(6/16)×(60/36)=3,600万円となり、AB&Companyの店舗当たり売上高とかなり近似する結果が得られる

次に売上原価を確認していく。ABCの開示によると事業間に連結調整等が相応に存在するため精緻な分析は難しそうだが、売上原価の中で見ておくべきなのは一際大きい「外注費」だろう
開示資料を読む限りでは、直営店の美容師さんとは業務委託契約を結んでいるようで、正社員として抱えているわけではないとのこと。つまり、歩合制で働いていると考えられる(歩合と書いたが、表参道の個人経営サロンで働く場合とは意味合いが異なる気はする)
外注費が約73億円となっており、直営店からの売上高に対しては約53%を占めている。ここの割合を下げると人材不足の昨今においては競争力を失いかねないため、どれだけ事業を拡大しても維持せざるを得ない部分に思われる。採用において、このバック率(歩合率)がかなりモノを言うのは間違いないようで、表参道で(一定腕のある)スタイリストを確保するにはより高い割合が必須と考えられる

続いて販管費を見てみると、ABCの一般的な店舗においては、広告宣伝費、地代家賃、その他固定費(インフラ費用等)がそれぞれ10%弱掛かっている。ABCはHOT PEPPER Beauty等を活用して顧客を獲得しているため、広告宣伝費は相応に発生してしまうビジネスモデルとなっている
表参道という日本有数の商業地であることを踏まえると、地代家賃はもう少し重くなると考えるべきだろう。他方で、HOT PEPPER Beautyに頼らずSNS等で集客ができている場合には、広告宣伝費はかなり軽くなるはずである

以上より、美容室はスタイリストの人件費という削減しようのないコストがあるため大きなマージンの改善は見込みにくいものの、その他のコストは比較的軽いため工夫の余地のあるビジネスと考えられる
トップラインの成長という観点では席数に縛られる側面が強いが、マージンの改善という観点では店舗の大規模化、マーケティングの強化等で明暗が分かれそう

余談だが、ABCのセグメント利益を見てみると、直営店の利益率が約3%、金額にして約4億円とかなり利益マージンの低いビジネスとなっている。他方、フランチャイズ事業は約9億円のセグメント利益を稼いでおり、収益の柱はフランチャイズの方だと考えられる
ABCは直営店で働くスタイリストをフランチャイズオーナーに迎えているとのこと。既に自社のやり方を体得した人をオーナーに迎えられるのは、直営店を数百店舗経営しているからこそ為せる業であり、簡単には真似できない。この独自のフランチャイズオーナー創出モデルがABCの強みの一つといえるのではないだろうか

【価値の推定】

ざっくりとした計算をする場合は#001と同じになり、かつ、一般的な美容室のマージンが求められていないことから今回は割愛します

【補論:売上げ成長施策の検討】

前回同様に無い知恵を絞って売上げを伸ばす施策も検討したい
年商の計算式は、①営業日数、②客単価、③キャパ、④稼働率、⑤営業時間、⑥滞在時間の6つの内、固定的に思える①③を除き、その他の変数について検討してみる

②客単価だが、ビジネスの性質上、カラーだけでなくカラーとパーマをセットで提供する、というようなメニューを増やすことでの客単価アップは、反対に⑥滞在時間を伸ばしてしまうため純粋な売上増には繋がらない。ここは各店の単価設定と施術時間の兼ね合いによるところなので、ひとまず深入りすることは避けたい
できるとすれば、美容室のメニューとは異なる観点からの価値提供である。例えば、カラーやパーマの待ち時間を活用したネイルやまつげパーマは
どうだろうか(振り返りながら調べてみると美容師法第6条・第7条あたりの規定によって美容室内での施術には制限がかかる模様。売上げ成長の余地はあるものの実現性はあまり高くない、というかやるとしてもコスパが悪そう)
あとは個室指定による個室料金の徴収や、飛行機に倣って席のグレードアップに際して料金をもらう可能性は検討できないか
④稼働率は、王道の方法としては稼働率の低い時間帯に限ったクーポン等の発行や割引は考えられる。アイデアとしては、例えば紹介ではなく、友人と一緒に来てもらうことでの割引や、美容学生やフリーランスへの場所貸しは考えられるかもしれない
⑤営業時間は、オーナーの経営方針によるところだが、表参道という立地を踏まえると早朝や深夜に来る人が多いとは思えない。加えて割増賃金によるコスト増も見込まれるためあまり有効な施策は思い浮かばない
⑥滞在時間は、技術力向上による短縮は考えられるものの、スピード重視は顧客満足度の低下を引き起こしかねない諸刃の剣である。弊害が少なく取り組めるものとしては、お店の待機スペースを充実させて予約時間通りの来店を促したり、会計をネットで済ませることでお会計の時間を削減したりすることは考えられるか

【終わりに】

いやー今回も結構勉強になりましたね。男女比とか新規継続比とか、普段の生活では考えもしない指標なのでちょっと悩みました。面白かったのは余談として書いたABCの強みですかね。コンビニとかは分かりやすくフランチャイズがメインですけど、上場している美容室の儲けの柱もフランチャイズというのは想定外でした
あとは、売上げ成長施策の検討の中で、客単価と滞在時間がトレードオフになっている点は失念していたので、再認識する良いきっかけになりました
モデル化する観点からは標準的な店舗がどんな様子かを考えていて、そうすると、新規参入や成長の勝ち筋を探す際に、標準から合理的に(=高い期待値を想定して)外れるにはどうすればいいか、を考えられるので、脳トレにはなる気がします(また実現性を確認しようと思って少しググってみると、業法での規制等も認識できます)
ということで、また気が向いたら投稿します

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