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文庫・新書の独断的10選(2024年上半期)

昨年末に1年間の読書を振り返って10冊を選んでいたけれど、後でやっぱりあれも入れとけば良かった、こっちよりもこっちだったかな、なんて因循に考えることもあった。

その後、このnoteで取り上げられていた本を買いましたなんて話を個人的に聞くこともあって、やはりもうちょっと本の紹介をしておいても良かったかなと思ったりしている。

何度か書いているように、わたしには乱読癖があって、ひとつの本をじっくりいっぺんに読破するということがあまりなく、だいたい同時進行で何冊も読んでいる。だから中には断片的にしか読んでいない本もあって、果たしてそれで紹介なんてやっても良いのだろうかと不安になる。

けれども数が少なくはないものだから、今年も年末に振り返るとなると、かなり迷うのは必至。やっぱりあれもと後で悶々とすることを思えば、小出しにしておくのも悪くはないのではないか・・・とも思う。

気がつけばちょうど6月も終わりに近づいて今年も折り返し(は、早すぎる!)。ならばキリが良いのでここでいったんまとめておくのが良いかもしれない。

そういうわけで、とりあえず今年になってから買った文庫本と新書本にしぼって、昨年末とおなじ要領で10冊ほど紹介しておきたい。買うだけ買ってまだ読んでいないものはとうぜん除外。読了してはいないけれどだいたい読んだものは含めている。

◆◇◆

もちろん文庫・新書だけでなく単行本やら雑誌やらもわたしは読んでいるのだけど、持ち運びに適した小型の文庫本はそれだけ読み進めるペースが速くなる。それは今年になってから買ったポシェットのおかげでもある。

一日一画より、その小型本用ポシェット。「人生は短い、もっと本を読め(Life is short. Read more books.)」

最近はこのポシェットに本と紙幣、鍵、社員証だけを入れて通勤することが多くなった。身軽なので、通勤途中や休憩時間のスキマ時間に読書ができる。昨年よりも読むペースがあがったように感じている(現実逃避が増えただけかもしれないけれど)。

さて、前置きはこのぐらいにして、ざっと10冊を選んでみた。ごくごく簡単に感想めいたものを書いておく。年末のnoteと同様、リンクはAmazonのアフィリエイト。気になったらクリックしてみてください。

今年の大河ドラマが面白すぎて、やたらと紫式部や平安文学に関連した本を読んでいるのだけど、そんななかで最も薦めたいのが『平安貴族とは何か』。著者は日本古代史の専門家で大河ドラマの時代考証担当者。その研究対象は古典文学ではなく古記録。古記録から客観的に史実を読み解くアプローチはとても科学的で、テレビ向けに脚色されたドラマの背後を知って楽しむのに最適だと思う。

わたしはこのほかにも平安文学がらみの書籍は結構読んでいて、それは自分の母語である日本語を見つめ直すことになっている。もはや日本語とは切っても切れない関係にある漢字との関係を、時代を追って丁寧に見てゆく『日本語と漢字』はとてもスリリングだ。大学講義の書籍化ということもあって、章ごとにポイントが絞られて資料も充実しているのもわかりやすい。

わたしは言葉が好きなのだけど、それは日本語に限ったことではない。ヨーロッパの言語をかじっていると避けては通れないのがラテン語だ。ベストセラーになっている『世界はラテン語でできている』は、身近な例をこれでもかと挙げながら西洋の文化と歴史に浸透しているラテン語を教えてくれる。日本語にも外来語として定着している語の数々にもラテン語は潜んでいる。わたしは著者のラテン語さんのツイッター(現X)をずっと前からフォローしていて、ツイートの書籍化を心待ちにしていた。

ラテン語とならんで西洋文明で無視することができないのがキリスト教。とくに近代以前の西洋絵画はギリシャ神話とキリスト教を知らなければ読み解けない内容ばかり。『キリスト教美術シンボル事典』では、800もの項目にわたってキリスト教絵画に出てくるモチーフが網羅されている。索引が日本語で順番が英語のアルファベット順というのがちょっと戸惑うところだけど、通読すれば古典絵画のどこを見れば良いかがわかってくる。西洋絵画の美術展に持ってゆくと重宝しそうだ。

ラテン語、キリスト教とくれば、シェイクスピア(ちょっと強引か)。『ロミオとジュリエットと三人の魔女』のタイトルからわかるとおり、これはシェイクスピア劇へのオマージュでありパスティーシュ。パロディとはちがって批判的な側面はなく、むしろ愛と敬意に満ちている。シェイクスピア劇の登場人物が(手塚マンガのスターシステムよろしく)意外な形で次から次へと登場し、気づけば独自のストーリーを作っている。そもそもシェイクスピア本人が主人公。マニア心をくすぐるポイントがたくさんあって、シェイクスピア好きさんには一読の価値あり。

日本に戻る。先日映像化された小説『広重ぶるう』は、単行本を借りて読んでいたのだけど、テレビドラマが良かったので再読したくなり、文庫版を購入した。文庫版はテレビドラマ化にともなって今年に文庫化されたばかり。武家出身の遅咲きの名所絵師の奮闘と葛藤は、わたしにはどこか共感できるところがある。

この『猫を処方いたします。』は昨年出た小説だけど、最近買った。書店で見かけて帯の「京都本大賞受賞!!」が気になって手に取った。我が家には4匹の猫がいるので共感できるのだけど、猫の癒し効果をメンタルクリニックの処方という形にしてしまう発想が面白い。わたしにとっては馴染みのある京都が舞台なのも嬉しいところ。

もうひとつ小説を。男女のあり方を根本から考えさせるテーマながら、短文で構成される繊細な文章表現が印象的で、『TIMELESS』というタイトルが仄めかすように、過去と現在(そして後半の舞台は未来)を行き来する自由な描写が幻想的。天候や香りや味覚といった周辺の描写から、生々しい人間らしさが重層的に表現されている。肌に染みいるような表現の言語感覚には感心するばかり。

そう、すぐれた言語感覚はクセになる。詩はその最たるものだ。詩人の最果タヒさんのエッセイ集『きみの言い訳は最高の芸術』は、日常で思うこと感じることを気取らずに書き散らした感のある文章で、著者の詩作品とはまた違った側面が垣間見える。

最後の10冊目は、毛色が変わって量子力学の『量子の世界を見る方法「スピン」とは何か』。今わたしは仕事がらみで物質の色のしくみについて調べている。そのために基本的なところをわかりやすく説明するための入門書をさがしていて、この本を見つけた。イメージしにくいスピンが丁寧に説明されていて、自分が今まで飛ばしてしまっていた内容を振り返って理解を深めるのに役立った。いわゆる理系のバックグラウンドがないと厳しそうではあるけれど、ありそうでなかったスピンにフォーカスした内容は貴重だ。関心のある方はぜひどうぞ。

こうしてふりかえると意外と小説も読んでいたことに気がついた。そうなのだ、小説は書店での速読では細部の繊細な表現まではとらえきれないので、おもしろそうだと思えば買って読むことになる。わたしの通勤ポシェットに入っているのはだいたいが小説の文庫本になった。平日に仕事から離れてリフレッシュするのにちょうど良い習慣になっている。

わたしがポシェット通勤しているのを見て、妻は同じラインナップのトートを買った。彼女はラップトップを持ち運ぶのでポシェットというわけにはいかない。わたしのポシェットと同じ文言が大きく書かれている。重たい本を入れることを想定して作られているのでかなり頑丈にできている。

こちらも一日一画より。筆ペンでのスケッチ。

今年ものこり半分になった。秋には神保町のブックフェスティバルもある。妻のRead More Booksトートを借りることになりそうな予感がする。ポシェットとトートの言うように、人生は短い。その短い人生を充実させるのに、巷にこれだけ本があふれている環境に感謝しないと。

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