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食レポ|ショーマッカー

 「おいしいパン」というフレーズが肌に馴染まない。そもそも「おいしくないパン」が存在しない気がするからだ。小麦の豊かな香り。パンの歯ざわり。それらはパンのおいしさを決める、大切な要素の一つなのだろう。しかし、その繊細な差異に僕は気づかない自信がある。言いたいことは一つだけ。僕はパンが好きだ。

 母親が買ってきた大量の総菜パンから好きなものを選ぶ。学生時代を振り返り、それは日常における宝探しと表現し得る時間だった。ウィンナー。とんかつ。あん。クリーム。好きなものと出会う場所。それがパンだった。

 店に入っても、その喜びは続いていく。明るい店内は香ばしさとやさしさで満ちている。宝箱のような、そんな空間にずっといたい。そして、満ち足りた探索を続けていたい。

 新たな出会いを求めて、僕は大岡山にいる。そこには「ショーマッカー」というパン屋がある。小雨が舞い落ちる中、僕は裏道を進んだ。昼下がりの店内はオフピークの山手線のように、静けさを伴っていた。陳列されたパンも数えるほど。そんな中から、僕は「なごみ」という豆パンをトレイに載せ、会計を済ませた。

 豆パンのファンではない。豆パンを求めていたわけでもない。しかし、「なごみ」は純粋でストイックな店の雰囲気に合致し、気づいたら自然と手を伸ばしていた。

 そのパンはとても”Dense”だった。日本語で言い得ないような気もするが、それは濃密であり、小麦が「詰まって」いるように感じられた。「身体に合ったもの」を口にしている。そんな感覚を覚える。

 パンの中には大納言とうぐいす豆が織り込まれている。この適度な甘みが、そよ風のような幸せを僕に運んでくれる。パンを通じ、新たな幸せを求める。そして、それを味わう。これからも、そんな循環が僕の体内で起こり続けることを願ってやまない。


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