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書評 #37|半沢直樹 アルルカンと道化師

 シリーズの新たな幕を開く『半沢直樹 アルルカンと道化師』。変わらぬ魅力により、始まりから終わりまで、一瞬で駆け抜けたような感覚を覚える。

 言わずもがな、世はお金を中心に回っている。しかし、根幹にあるのは、そのお金を使う人の心だ。本作も他のシリーズ作品と同様、心を問う。そして、お金よりも大切な何か。抽象的だが、心を大切にしないと、お金も手にできない。その事実を再認識させられる。

 主人公である半沢直樹の敵として登場する多くの人々。保身という言葉に象徴される、利己的で一面的な発想や行動の数々。思慮や考えを含む、それらの「浅さ」を反面教師として多くの読者は捉えるだろう。自らを優先的に大切にしているようで、結果に結びつかないのは滑稽にも映る。

 半沢直樹は自らの信念を大切にする。表層的だが、「心に寄り添う」ということだろうか。それは結果として周囲の人々を大切にする。その深い思いは彼の先を見通す力、さまざま可能性を考慮した上での、抜かりない強固な戦略へと反映される。

 そして、半沢直樹は自らが動く。人を訪ね、直接対話する。人を動かすのは、人の心である。それを体現しているように感じた。

 作品の重要な構成要素でもある絵画。それは人の心を映す鏡だ。一枚の絵により、人は成功を収め、難苦を味わい、翻弄される。アルルカンと道化師に象徴される、仁科譲と佐伯陽彦の物語には魅力的な深みがあった。展開される時空を超えた謎解き。その答えにもまた、人の心がある。


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