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食レポ|麺匠 佐蔵

 コンクリートの向こうに信州の山々が切り立つ。澄んだ空気は空の色を映し、青く輝く。山に囲まれた、青き世界。

 十二時前に到着したが、店の前には入店を待つ人々が列を作る。陶器のような白い外壁。「麺匠 佐蔵」の蔵が青空に映える。呼ばれるのを待つ間、蓮木くんと現在のアーセナルを指揮するミケル・アルテタの采配について、テーブルの上に置かれたナプキンを当てもなく手で折ったり、丸めたりするように無造作な言葉を交わした。

 十分は過ぎただろうか。女性店員から蔵の中へと導かれる。先に購入した「佐蔵味噌らぅめん」の食券は既に渡してある。蔵の中は上下に分かれていた。決して広くはないが、身体が適度な穴に収まるような、快い感覚が肌を抜ける。階下のカウンター席に座り、入り口の前を通る人々を眺めた。

 白茶のスープ。縁が泡立っている。手前に肉味噌が盛られ、丸々としたチャーシューが顔をのぞかせる。中央の万能ネギは青々と光り、丼に色彩を与えた。

 レンゲで口元へと運んだスープに眼と意識が開く。そのスープは粘度が高く、味噌が持つ深みのすべてを凝縮しているような感覚を覚えた。「すみれ」とも違う、角のない和な雰囲気を併せ持つ味わいに舌は震える。

 寒さが刺した身体に「佐蔵味噌らぅめん」の温もりと肉気が広がっていく。麺を箸で持ち上げ、スープをレンゲですくうたびに、僕は小さくない満足を身体に注いだ。

 これから僕たちはアルウィンへと向かう。これを「完璧な準備」と呼ばずして、何と呼ぶ。


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