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書評 #45|犯罪者

 『犯罪者』は『幻夏』以上にスケールを感じさせる作品だ。太田愛にとっての処女作。物語の核となる謎。その謎は読者の想像を超え、真相を求める旅路へと駆り立てる。

 白昼に起きた五人の殺傷事件。被害者の間につながりはない。ただ一人の生き残りである繁藤修司の視点から、事件の違和感が炙り出され、真実、解決、復讐を求める壮大な冒険が展開される。

 修司が搬送された病院で、見知らぬ男から警告された十日の存命期間。通り魔と対峙した修司にしかわからない、容疑者とは異なる暗殺者の存在。刑事の相馬。探偵の鑓水。三位一体となって事件の核心へと近づいていくが、それと同時に高まっていく危険も読者に手に汗を握らせる。これは一級品のホラーでもある。

 矛盾が生まれないよう、細部に気が配られていることをひしひしと感じる。その一方で、エンターテインメントとしての緩急も確立されている。相馬は修司を「並外れた冷静さと常軌を逸した無謀さ」を持つ人間と形容する。もちろん、無謀さはないが、この作品には緻密さと荒削りな面が同居しているように感じてやまない。

 書物に限らず、この二つの要素はそれが良質か否かを判断する上で通底しているのではないだろうか。読者の心を離さず、納得を作るディテール。それは安心とも言える。産業廃棄物処理や「民事法律扶助法」の課題を指摘した点はまさに典型だ。そして、読者の度肝を抜く大胆なプロット。読み手の想像を超えなくして、感動は与えられない。

 本著の結末は灰色と表現したい。登場する全ての事柄が適切な場所に落ち着いた状態は理想的と言える。しかし、くっきりと二分することのない明暗が本著の魅力であり、それが社会や人間の歪みを描くリアリティではないだろうか。


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