書評 #48|フットボール新世代名将図鑑
濃厚だ。『フットボール新世代名将図鑑』には知識と愛情が凝縮されている。費やした時間。重ねた思索。「サッカー」ではなく「フットボール」と冠することに、筆者の競技に向けるこだわりも感じてやまない。
「一般的」とは抽象的な言葉だが、その視点に立てば、本作に掲載された指揮官たちの多くは無名だ。その名もなき者たちに脚光を浴びせ、その特徴を浮上させる。そこに対面することは、世界中に広がる未知の原石を探し、見つけ出したかのような興奮を帯びる体験だ。
「原則と例外」。次代の名将たちは自軍の選手たちが輝く基本形を授ける。「ゲームモデル」「コンパス」といった言葉でも形容されるそれは、選手たちがプレーする指針となる。そこに生じる揺らぎは混乱と破滅を招く。多彩な選手たちがいても、時にチームが機能しない理由を端的に描き出す。それは「下絵」とも言えるだろうか。
白黒の下書きの上に、選手たちは絵の具を塗るかのごとく、それぞれの色で満たしていく。その色は気ままだ。細部までの指示を求める者もいれば、自由を好むも者もいる。鍛錬。対話。映像を駆使した示唆。気まぐれな空のように、千差万別の変数に意識を向け、彼らは選手たちを勝利へと導いていく。
曖昧模糊とした世界の中で、言語化する能力の大切さも再認識させられる。困難であるからこそ、そこに工夫が宿り、個性が映る。一貫したアプローチが体系化されたウェールズの「Welsh Way」は象徴的だ。
その探求の現在のみを見つめるのではなく、筆者は過去にも眼を向ける。それは過去の経験が思考に及ぼす影響を理解しているからに他ならない。人々やイデオロギーとの邂逅。フットボールは極めて人間的な営みであり、無限の可能性に満ちていることを実感する。その奥深さこそ、この競技の魅力ではないだろうか。
ここにはフットボールに対する無数の解釈がある。論理的であり、感情的な競技の魅力に触れることができる。「型の決まった競技に勝利するため、その型を破る」ことを新世代の名将たちは目指す。彼らによって進化するフットボールは、結城康平の簡潔かつ丁寧な文体と表現によって、その姿が紡ぎ出される。
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