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「詩 その他」から分離して、詩のテクスト情報を掲載します。
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記事一覧

悪の炭酸割り

悪の炭酸割り

炭酸水に時計草を溶かしてしまおう。無数のエモい言葉。感動と感謝と奇跡も植物と一緒にアイスティーに混ぜよう。そうやって毎日を誤魔化しながら筋肉痛を堪えるのだ。君の欺瞞で植物が萎えてきたら書き溜めた日記を燃やして肥料にするよ。猥褻な言葉や卑猥な日常が、真っ赤な余白と化学反応を起こして憎しみの糧になれば私達の会話にも少しは意味が芽生えるのかも知れない。君はデリカシーに欠け、私は秘密がなさすぎる。悪は凡庸

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脱主人公

脱主人公

君を求めて、思想のないポートレートを撮る。ぎこちない笑顔をデータの上に閉じ込めても思い出には届かない。私の中の主人公性は冷却される。「君」と「私」で出来た狭い詩の世界で妙に冷め切った三人称の影が牢獄の外へと逃げ出そうとした。私は影を閉じ込めようとして窓で首をちょん切る。窓には二つの月があって、一つは空中に浮かんでいて一つは窓にあるシミだ。君は見立ての力で月を飲み干そうとして、私はシミを拭き取って眠

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足音についてのメモ

足音についてのメモ

惑星から滑り落ちる君は
今日はどこにしがみつくのだろう?
私はいつも通り孤独に活字を追っている
休日は途方に暮れ
文字を書くのだが
結局は何も追いかけていない。
あるのはドーナッツのような奇跡と
冷たい足跡だけだ。
どれだけ推敲しても
足音はついてくる。
自分という影を振り切ることはできない
何にしがみつこうと。

煙

いくつものモザイクが合わさって
都会の風景はできている
何を尋ねても漠とした答えしか返ってこない空間に
思念は渦巻いて沈澱している。
白い、夜の闇はエロティックで
人々は同時に死を求めている。
生きる事は呪いに似ている。
煙を吐いて歩く中年の男
彼にも仕事があるのだが、
そこにはドーナッツの空洞のような呪いがあり
どうして労働を続けるのか
本人にはわからないように
罠が仕掛けられている。
働くこと

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冬の隅っこ

冬の隅っこ

雨が降るたびに寒くなりある日冬が到来した。冬はカモミールの香りがして私は小さな咳を溢した。点線で繋がれた曇り空をなぞると、綻びからすぐにでも夜空が出てきそうだ。呪ったり呪われたりしながら少女達は走って行く。そうしていくつもの血液が枯れて行き君は生きて行くだろう。

生きることは恐ろしい孤独から孤独へ吸い込まれて行くようだ。水槽にいる生物を根こそぎ食べてしまっても空腹は治らない。君は怒りながら生きて

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何処かの戦場

何処かの戦場

ガラクタを積み上げて
 遠くの海へ鼓動を投げた
  どこか遠くの戦争へ向けて
何も出来ない私は投げた

テンポは遅く、日常は溶けてしまいそうだ
雨の日の明け方
コーヒーを淹れて尋ねる
私は平和だろうか?

色々な銃火器があり、
 様々な兵器があり
  それら暴力を集めるのが好きな人がいる
安い日常の雨の中
 去勢された暴力がムクムクと目覚めて
  電車に乗り、ガタンゴトン
学校へ歩いてゆく。

スズムシ

スズムシ

感傷を嫌う君が夕暮れに黄昏れる時、
欺瞞や身勝手さが鮮血のように滲む。
白鷺は私達を警戒しながら虫を食べて、
秋に仮装する人々に君の苛立ちは育つ。
自由を愛するなら公平を憎むべきだ、
愛はいつだって身勝手なものなのだから。
身を震わせて鳴いてみればわかる
高揚に靡かず毎日震えていれば、
いつか歌になれる。
だが書かれた言葉はいつか消失する、
絶望に耐えられない祈りは宙吊りにされて
残るのは簡素な足

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秋の詩

秋の詩

雨が降る度に寒くなり
雨が上がる度に秋は更けてゆく。
都会は外国人が増えた。
東京というロマン
コーヒーの美味しい季節だ。
最近は文章が上手く書けない
思考の濁り、感性の劣化
切れ味の悪くなる刃物のようだ。
何かを捉えようとすると固くなり、
何かを流そうとすると甘くなる
知覚のシャッタースピード
致命的な物忘れ
文章という不完全な器を満たして行く言い訳だ
君は永遠に沈黙する。

緩慢な動きに合わせ

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精神病院の練習詩

精神病院の練習詩

会話は点々として
患者達は寝室で時間を潰す。
果てしない時間と空気が
二重扉の中で渦巻いて続き
夏は薬で老いさらばいた。

君が語る美しさ
健康的で恒常的な輝きは
狂人にはまぶしくも儚い
満ちるが如く散りゆく思考だ。
秋の息吹でテーブルは沈黙する。

タバコが吸えない女性が突っ伏し空腹を訴える。
理由もなく叫ぶ女性が看護師に怒られた。
暗く、不健康な精神病院で、一体何に感動すれば良いのだろう?

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ヤヌスの抒情詩

ヤヌスの抒情詩

きっと愛は憎しみに変わるだろう、
けれど慈しみは残るだろう、
その醜い変容の過程を転がり落ちる
悲しい肉体が私なのだ。

宙ぶらりんの体から
愛はうつつを抜かすもの
君が決めつける幾つものルールを、
私は何一つ取り除けない。

建物の隙間、影に含まれた光、
広大な建造物の精密な細工、
君は恍惚としている。
君の興味は神秘性なのか?

いつから愛しているのか、もう今はわからない。
きっと隣で話した時

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カーテン

カーテン

 気が狂う
 闇を押し付ける病院の寝息
 カーテンで区切られた圧迫感が
 まもなく死のうという老人達の眠気を拭う。
 もう一滴も眠らずに死ぬ者達に
 どのような慰めがあるだろう?「それでも一生懸命生きて」と誰がいえるだろう?
 そんな開けない夜が
 私の眠りをはばむ。

#詩

灯火

灯火

重い気配に息を殺され
軽い世界病を移され
コラージュの祭典回転、発展、
肺死んで配信だ。
血を吐いてくれ
この痛みでしか償いえない
官能を串刺して
灯火を落としてくれ。
いくつもの記憶と予感の残骸が、
いつか雨となってお前を隠したらいい。

黒い繭

曇り空に
黒い繭を吐く。
軽い綿のような感触で
中身は血液が入っている。
そこから赤い糸が抽出されて
私は君に繋がろうとする。
空っぽの魂が
沢山の空洞を通して
真っ赤に溶けながら
生きる意味になろうとする。
けれど糸は必ず切れ
雨は降り始める。
糸は散り散りに溶けて
誰にも繋がらない。
それと知っていながら
私は繭を吐く。
#詩

ドッペルゲンガーのくせに恋をしたり人らしく生きるなんて滑稽だな。みんなバラバラの思い出になって、思い出話とか話すようになる。センチメンタルが嵐と共に降ってくる夜、ドッペルゲンガーに同情したとして、ドッペルゲンガーを愛したりはしない。 #詩