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脱主人公


君を求めて、思想のないポートレートを撮る。ぎこちない笑顔をデータの上に閉じ込めても思い出には届かない。私の中の主人公性は冷却される。「君」と「私」で出来た狭い詩の世界で妙に冷め切った三人称の影が牢獄の外へと逃げ出そうとした。私は影を閉じ込めようとして窓で首をちょん切る。窓には二つの月があって、一つは空中に浮かんでいて一つは窓にあるシミだ。君は見立ての力で月を飲み干そうとして、私はシミを拭き取って眠りについた。何かを成し遂げたいという呪い。偉業を残したいという虚勢の主人公になるのをやめよう。ポートレートに写るぎこちない笑顔も、沢山の呪いに洗われた自我も、寂しいだけの魚も、紙に書かれた無意味な血管も眠りの中では愛おしい。手の負えない夢の残骸で、原子力発電所が燃えている。一線を超えるのは間もなくだ。

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