バレンタインと虚礼の話
新卒で入った会社は、"虚礼廃止"が謳われていた。
社長からは「お中元やお歳暮はもちろん、ポッキーひと箱ですら受け取ることは許されぬと心得よ」と伝えられており、上司との年賀状のやり取りも不要とのことだった。だからバレンタインも当然あるわけがないと判断し、2月14日が近づいても上司や社長宛のチョコレートなんて準備していなかったのだけれど…
2月13日、退社しようとする自分を社長が呼び止めた。
「明日のチョコレートは用意しているんだろうな?」と。
23歳(当時)は素直に問い返した。
「え?うちの会社、虚礼廃止ですよね?」と。
それを聞いた社長はぷんぷん怒り始めた。
どうやら「お前というやつは!世話になっとる上司達に日頃の感謝を伝えることを虚礼というのか!?」ということらしい。
しかしこの社長。
巡視ついでに近くを通ったからと、アポ無しの突撃実家訪問をおこなったり。(「きちゃった♪」と実家の前に到着してから自分に連絡してきたので。何も知らない親も当然大慌て…)
休日に「メールをまとめて消す方法がわからんぞ!」と個人携帯に電話をかけてきたり、本社への提出書類を期限を超えて溜め込んでは指摘されて逆ギレしたり、言うことや機嫌がころころと変わったり、子供のような我儘を言い出したり…とわりと個性的なお方で。
周囲からも「あの社長の下、大変でしょ?大丈夫…?」と声をかけられるような相手である。
正直な所「日頃の恨みならあるけど…えっ?」という気分だったのだけれど。さすがに社長直々に「用意しろ」と要求されて、それを無視できる程に肝が太くはない。仕方なく仕事帰りに適当なチョコを社内の人数分買って、翌日配ったのだった。
さて、チョコレートを渡したならば返礼品は必須というもの。
というわけで3月14日は、少々期待をしていた。なんといっても相手は"肩書き社長"なのだ、多少はワクワクしても許されるだろう。しかし、その期待はあっさりと裏切られた。もちろん悪い方向に。
社長から返ってきたのは、うどんチェーン店のおはぎだった。(広島市民ならわかる、あそこ)
3倍返しが相場と言われるホワイトデーに、下手したらこちらが渡したものよりも安いものを返して来られるとは…まさに想定外。しかも自分がチョコレートを要求したにもかかわらず、のこの所行。
さらに一人暮らしの女性に向けて、日持ちのしない生ものを6個入りで渡してくるとは…気遣いのカケラもない。ついでに言えば、当時は餡子が苦手だったので。心底、本当に心底がっかりしたバレンタインデーだった。
あれから、かなりの年数が経ってもこうして覚えているのだから…食いしん坊による食い物の恨みというのは、深い。実に深い…。
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バレンタインデーという言葉に、昔々の記憶が蘇ってきたので供養がてらに。
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