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歴史は繰り返される【都道府県シリーズ第2周:宮崎県 宮崎市編no.1-5】

宮崎市南西部の田野地域には多くの台地が連なっており、住みやすい土地だったからか、旧石器時代から人々が暮らしていたようです。
しかし良いことばかりではないのが、日本の国土。
約3万年前に鹿児島湾の姶良火山が大噴火を起こします。
火砕流の直撃を受けた九州南部の動植物は壊滅。
それを逃れたとしても、30cm以上降り積もる火山灰に埋没します。
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果たして、その後の田野地域はどうなったのでしょうか?


縄文時代の田野地域

入戸火砕流の直撃を受けた旧石器時代人は絶滅してしまいましたが、本野原遺跡(もとのばるいせき)では旧石器時代後期の石器も見つかっています。
運良く生き残った者の子孫が戻ってきたのか、全く別のグループが移住してきたかは分かりませんが、旧石器時代後期に人類が住んでいたのは間違いありません。

なお日本の旧石器時代人は、最も確実なデータでは約4万年前から日本に住み始めたようです。彼らはホモ・サピエンスであり、縄文人の直接の先祖だと考えられています。

宮崎県宮崎郡田野町教育委員会(2004)によると、縄文時代早期(1万1500年前~7000年前)の地層で集石遺構土器が見つかっています。
なお集石遺構とは、石をたくさん集めて並べ、加熱して肉などを焼いた調理施設だと考えられています。

本野原遺跡の集石遺構写真:宮崎県宮崎郡田野町教育委員会(2002)より

この集石遺構は15基も発見されています。
1基のサイズは直径1~2m程度なので、1基あたり1家族で使っていたとすると、15家族分の人々が暮らしていたのでしょうか?

それ以降の時代では、縄文時代中期後葉~晩期(約5000年前~2400年前)の地層で、何と113軒もの竪穴住居が発見されいます。

しかし、上記2つの遺跡には約2000年もの空白があります。
この間、何があったのでしょうか?

1つ確実に言えることは、縄文時代早期の地層のすぐ上を鬼界アカホヤ火山灰が覆っているということです。

鬼界カルデラの大噴火

鬼界アカホヤ火山灰とは、約7,300年前に発生した鬼界カルデラの大噴火によって噴出した火山灰のことです。
この火山灰は東北地方南部にまで達しており、完新世(約1万年前~現在)で世界最大の噴火と言われています。

鬼界カルデラ周辺の地形図:スーパー地形画像に筆者一部加筆

鬼界カルデラは、上図のように鹿児島の南方、種子島の西方に位置し、薩摩硫黄島竹島がカルデラの外輪山に相当します。
なお赤点線の範囲がカルデラですが、これは資料を見ながら私が大まかに描いたものなので、目安程度であり、正確ではありません。

この噴火は大規模なものでしたが、九州本土から離れた海であり、海底火山の噴火であったことから、陸上の被害は姶良大噴火ほどではありませんでした。
とは言え、火砕流は海上を走り、南の屋久島や東の種子島、北の薩摩半島と大隅半島を襲います。
また火山灰(鬼界アカホヤ火山灰)は九州では20~30cm降り積もったと言われています。

九州の縄文文化は壊滅した?

ここ最近、youtubeでは「鬼界カルデラ大噴火によって九州の縄文人が大打撃を受け、東日本や大陸へ移住した」と説明する動画を良く見かけます。

しかし今回、論文等で火砕流の到達範囲や火山灰の量を確認してみて、「そこまでの被害になるのだろうか?」と言う疑問を持ちました。
もちろん、火山灰が20~30cm降り積もれば、かなりの被害です。
特に現代の文明社会にとっては、交通インフラはストップし、電線が切れて電力供給が途絶えたりと、大混乱に陥ると思います。

一方で、森林環境にとっては、火山灰はどの程度の被害をもたらすのでしょうか?
これについては、花粉等の分析で植生に与えた影響が研究されていました(杉山2002、松下2002)。
これによると火砕流が到達した鹿児島県南部は、照葉樹林が草原(ススキ類)に置き換わったものの、その外部は大きな変化はなかったようです。

つまり、被害が大きかったのは火砕流が到達した鹿児島県南部地域までだったようで・・・。
それ以外の地域は、森林には大きな影響がなかったということで、狩猟採集生活だった当時の縄文人にとって、そこまで深刻な被害だったのか?と疑問に思ってしまいます。
なお噴火による津波もあったようなので、海岸沿いの集落には大打撃だったでしょうし、もちろん食べ物の総量は間違いなく減少するので移住は必要だったでしょう。
でも数100年も人が住まなくなるほどなのかは少々疑問です。

しかし鬼界アカホヤ火山灰の前後で縄文土器に変化があったことは事実として残ります。

私自身は考古学や歴史の専門家ではないのでこれ以上は分かりませんが、宗教的なものなど、様々な要因があったかも知れませんね。

今回は以上です。
お読みいただき、ありがとうございました。

参考・引用文献

町田 洋、新井房夫(1978)南九州鬼界力ルデラから噴出した広域
テフラ-アカホヤ火山灰. 第四紀研究, 17, p.143-163.

松下 まり子(2002)大隅半島における鬼界アカホヤ噴火の植生へ
の影響. 第四紀研究, 41, p.301-310.

杉山 真二(2002)鬼界アカホヤ噴火が南九州の植生に与えた影響
-植 物珪酸体分析 による検討-. 第四紀研究, 41, p.311-316.

宮崎県宮崎郡田野町教育委員会(2002)縄文集落本野原遺跡 県営農地保全整備事業元野地区に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書.田野町埋蔵文化財調査報告書 第44集.

宮崎県宮崎郡田野町教育委員会(2004)本野原遺跡一 県営農地保全整備事業元野地区に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書.田野町埋蔵文化財調査報告書 第48集.




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