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【コーヒーは唇に付けて飲め】

小学生の頃、家族で箱根に旅行に行ったことがあった。そう当時は、ロマンスカー内に食堂車があり、家族四人で食事をした。何を食べたかは、はっきりと思えていないが、コース料理だったような気がする。

父は、東京生まれで、今でいうところに「グルメ」。時々、銀座のフランス料理のレストランへ家族を連れていき、ナイフとフォークを使うコース食事を食べさせた。今思い返すと、普通のサラリーマン家庭なのに、田舎から、電車を乗り継いで、銀座に行き、箸でやっと食事が出来るようになった子供にナイフとフォークで食事をさせる父の思いとはどんなものだったのだろうか。

食堂車での食事の最後に、コーヒーが出てきた。しかし、列車が揺れるので、片手で安定してカップ持てず、コーヒーをこぼしてうまく飲めない。

カップを唇に付け、それから飲むんだ

父の言う通りにやってみた。唇にあたるカップが少し熱かったが、それを我慢してカップを少しづつ傾けると、なんとかコーヒーを飲むことが出来た。まだまだ子供だ、コーヒーの美味しさが分かるわけがないが、テーブルマナーを一つ覚えて大人になったような気分と、父の褒められたうれしかった記憶は今でも鮮明だ。

子供なんだから、カップを両手で持って飲んでもよかったのではと、今では思うが、マナーに関して口うるさい父にとっては、子供とは言え、両手持ちは許しがたかったのだろう。

今は、日本でも食堂車はなくなってしまい、列車内でサーブされるコーヒーは、紙製のカップに蓋がついているので、こぼすことはない。会得したこのマナーを再現する機会はもうないだろう。

追伸:purleymayさんの画像を使わせていただきました。ありがとうございました。

「人生経験の引き出し」がいっぱいあります。何か悩み解決のヒントになる話が提供できるかもしれません。