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人類学的向き合うって、どういうこと??「人類学的リサーチ事始め ~人類学者の情報収集と「問い」の見つけ方~」イベントレポート

大学院の先輩であり、企業とも様々な共同研究を行っている比嘉夏子さんと共同で人類学的リサーチの方法に関するセミナーを2021年6月25日に開催しました。

普段、私も比嘉さんも人類学に関する素朴な質問をよく受けるので、そのことにまとめて答えるセミナーをやってみようか?と軽い気持ちで企画したところ、あっという間にZoomの定員である100名に達してしまい、当日キャンセル待ちが出るほどになりました。

この記事は、イベントレポートです。どんなことが行われていたのか、概要を掴みたい方向けに書いています。

セミナー概要・参加者

6月25日、金曜日の夜に開催しました。約一時間は比嘉さんと水上からのセミナーを行い、その後の時間はQAセッションとして、参加者の皆さんとインタラクティブに交流しました。

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私と比嘉さんが極度のパワーポイント嫌いということもあり(笑)、スライドには画像とキーワードだけを貼り付け、二人でそのキーワードについて語り合う、いわば「漫談形式」のセミナーとなりました。その効果もあってか、質問やチャットが活発になり、終了時アンケートでも「チャットや発言が活発で楽しかった」とのコメントを頂きました。(やった!)

イベント企画前は、「本当に多様な人が聞きに来てくれるのか?」と、不安だったのですが、蓋を開けてみると、
現役の学部生、院生
UXデザイナー・リサーチャー
コンサルタント
大企業・中小企業の事業部責任者
個人事業主
学校の先生など、様々なフィールドで働く人々が参加していました。

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参加申し込み者の年齢は20代が一番多く、次いで、40代、30代となっていました。

取り上げたトピック

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「なぜ、人類学的なリサーチが必要なのか」から始まり、「具体的な人類学者の情報収集とそれを実現するためのリサーチ設計」、そこで得た情報を「どのように解釈し「問い」を立てるのか」、「人類学的アプローチが効果的に使える場面」といったテーマで語りました。

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特に反響が多かったのは後半の「問いの見つけ方」セクションです。

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新しいアイディアを得たり、プロダクトの本当の役割を考え直すには、自分では考えつかないこと(=想定外の考え方)に出会うことが必要です。自分の想定外に出会うためには、過度な目的志向/思考から脱却して、集めてきた情報に対してフラットに向き合うことが重要ではないかと考えています。

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「問い」そのものについても注目があつまりました。

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「問いを見つける」ことを仮説検証と対比して説明しました。調査の中で、ぼんやりと全体を見ていくうちに、主観的に引っかかる「気づき」があります。その「気づき」を自分の中に保留しておくことで、より構造的な「問い」を立てることができるのではないでしょうか。

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そしてそのような「問いを探る活動」はプロジェクトの初期段階にこそ有効なのではないか?とまとめて、私達の漫談パートを終えました。

QAセッション(質疑応答)にて

たくさんの方から、チャットや口頭で質問や感想を頂きました。いくつか抜粋してご紹介します

参加者Aさん「リサーチャーから遠い位置にいるステークホルダーの共感を得る方法が気になる。「なぜそう言えるのか」などという意見も来そうです。共感を得るための工夫はありますか?」

比嘉「難しいですよね。いろんな現場で工夫されていることだと思います。冒頭でプロセスが重要だと述べました。結果だけ報告されると、そのような意見が来るのではないかと思います。極力プロセスをシェアできるような方法を取ると良いのではないでしょうか。最後にいきなり結論を伝えるのではなく、ステークホルダーをリサーチに巻き込むような工夫をしていくといいのではないかと思います。ただし、大きな課題ですよね。」

参加者Bさん「 調査のプロセスに最も豊かな発見があるとすると、個人的にはプロジェクトの結果をリードする人間の問題発見に人類学的フィールドワーク体験を使ってもらえば良いのでは?と、いうのがここしばらく考えてることです。要は他人に説明するためじゃなくて、リーダーの視点を変えるためのフィールドワークという視点です。」

比嘉「正に私達が言いたかったことです!組織が大きくなればなるほど、現場と意思決定者が遠くなりますよね。意思決定者の方が、人類学的なリサーチによってわかったことを、理解することが重要だと考えます。リサーチは社会に実装されるもののために行うべきですし、経営者の方々がこのようなプロセス・知見を理解していただくことが今後、重要になると考えています。」

参加者Cさん「想定外がある(であろう)ことを想定して見つけに行くための工夫とか準備とかはありますか?例えば、あえて自分の想定の枠組みを言語化しておいて、それが当てはまらない状況をさがしにいくとか。」

比嘉「面白いですね。私が意識しているのは余白を積極的に用意しておくこと。加えて、自分から遠い人に積極的に会いに行くことを意識していますかね。例えばジェンダーとか。自分に近い人たちに会っていては、共感などはすぐできるかもしれないけど、違いには気が付きにくいですよね。自分が20代だったら50代の人に会いに行ったり、都市住民だったら地方住民に会いに行ったり。遠い人たちと積極的に会える場所を作ることは意識しています。」

所感と次回に向けて

終了後のアンケートを見ていると、「新規事業の立ち上げに役に立つ」「想定外の情報にひかれたリサーチができるようになる」「暗黙知の形式知化」「イノベーション」などのキーワードと紐付けて考えてくださる方が多くいることに気が付きました。私もそのあたりと、人類学的なアプローチの間にうまく橋をかけることができれば、良いのにな…と思って活動しています。今後の皆さんとの交流を通して、どんなことに応用可能なのか、どこで一線を引くべきなのかなど発見していきたいと考えています。

また、ある方は「リサーチャーの技能は予測不能な未来に対して怯えず動き出すために広く必要な技能である」とコメントしてくださいました。

まさに、私が発信したい技能であるなと感じました。他者の視点から学ぶことで、自分の視点を絶えず更新し、常に変化する世を知覚する目、耳、鼻、感覚を鍛え、観察・体感しつつ、行動していく。積極的な行動のためのリサーチを形作っていきたいと思っています。

リサーチは他者や外のことを知ることのように思えます。ただし、真価は他者をまなざす自己を知る点にあるのではないでしょうか。表面的な技法や手法だけでなく、人類学の面白くもツラい深部を内包した活動を展開していきます。お楽しみに

共催者の比嘉さんによる鋭いレポートはこちら
人類学者の考える「リサーチの価値」https://note.com/natsukohiga/n/n0e2b4260eb6a


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