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進まない変革を進めるために

お役所仕事と言うけれど
どんなときも正確に平等に扱うように
そう望んだのは市民じゃないのかい
やり方を変えて苦情がきたら
お前が責任を取ってくれるのかい
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
定年を待たずに地方自治体の職場を離れて新天地へ旅立つ仲間のことで最近いろいろと書きました。
退職の理由は人それぞれですが、世間で報道されているような給与等の待遇面での不満だけではなそうだというのが最近の見立てです。
むしろ新天地で得られるものや果たしたい役割への期待からの転職ではないかということを私の実情も踏まえてご紹介したところです。

とはいえ、転職というのは私自身もなかなかそこまで踏み切れない、結構重たい決断です。
地方公務員という安定した身分を捨てることで収入が変動するリスクは当然あり、また理想に燃えて新天地へはばたいたとしてもその思いが叶うかどうかでさえ保証はありません。
それでもリスクを承知で新たな道を探る公務員仲間が増えているのは、社会全体の人材流動化の動きももちろんありますが、地方公務員として自治体で働く現状に対して何らかの不満が起爆剤となっていることは否めません。
先日からご紹介している「地方公務員の退職理由に関するアンケート」でも転職(またはその検討)理由の1位は「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」というものでした。
ではここで理由として挙げられている「変革」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

以前、こんな記事を書きました。
公務員を辞めて転職した方、あるいは転職を検討している方が自らの職場に不満を感じていることの多くは「お役所仕事」という言葉に代表される「形式的で時間がかかり、実効の上がらない仕事ぶり」が温存され一向に改まる気配がないことではないでしょうか。
この現状を変えたいといくら熱望して実際に行動を起こしても、自分だけの力ではこの巨大で強固な岩盤を穿つことはできず、「組織が旧態依然のままで変革が期待できそうにない」と変革をあきらめ、新天地へ羽ばたいていくというのが実情ではないかと思います。
私たち地方自治体職員は、その変革の必要性に気づいていないということではなく、ほとんどの場合はわかってはいるけど動き出すことができない(したくない)ということなのですが、その現状を打破するために必要なものは何でしょうか。
 
一部の「意識の高い」公務員が変革の必要性を叫び、改革を進めようとしてもあれこれ難癖をつけて牙を抜き、爪を折ってお蔵入りにしてしまう現状肯定型の公務員組織を変える一番確実な方法は「民意」だというのが私の考えです。
私たち公務員は市民の声、市民の目線をとても気にしています。
自治体組織の「変革」についても、多くの市民がそう感じている、あるいは少なくても強く「求める」市民がいるという事実は、公務員の重い腰を上げるのには効果があるでしょうし、現状を変える「変革」へのためらいを払しょくし、舵を切ることを決断させるのもまた民意です。
前例踏襲や事なかれ主義に走ろうとする公務員がその殻を破り改善改革の一歩を踏み出すのに彼らが欲しがる「安全性の確保」。
新たな判断を下しても大丈夫ですよ、誰もあなたを責めませんと、改めて市民からのお墨付きをもらいたいという心理もあるのです。

ここでいう「民意」は選挙で示されるものだけではありません。
私たち公務員、あるいは私たちの仕事ぶりがどう思われているのか、市民の皆さんに見えているもの、わからないと感じていること、ひょっとしたら私たち公務員が気づいていないけれども生じているちょっとしたすれ違いなどについて忌憚なく語る機会があれば、と思います。
大きな組織にありがちな、組織の中の常識、論理で動く「たこつぼ化」。
私たち公務員は、一つ一つの組織は小さくても、国、都道府県、市町村という大きな括りの中で、公務員ムラという閉ざされた世界に安住してしまっています。
私たち自身がその中から出てきて心を開くべきですが、互いの違いを認め合いながら、互いの求めているものを理解し合い、その溝を埋めること、距離を縮めることのために、外側にいる市民の皆さんからも気軽に声をかけていただけたら、そんな関係性の良き隣人としておつきあいいただけたらと思います。

見方を変えれば、公務員は「変革」のために必要な「対話」の資質を十分に備えた職業人であるとの見方もできます。
どういうことかというと、公務員は変幻自在に立場、視点を変えることを求められ、それができないと務まらない職業だからです。
私たち自治体職員はほぼ間違いなく、自治体の担う幅広い業務分野をまたぐ異動をものともせず、個人差はありますが移動から数か月も経てばその職場に順応し、職場で従うべき法令、前例、慣習等に基づき、業務を執行できるようになります。
このカメレオンのように変幻自在な七変化ができるのであれば、一定の与条件に基づきいかようにでも自分を客観視できるのではないか、自分の仕事が市民から見てどう見えるのかを相手側の立場に立って考えることができるのではないかと思うのです。
 
組織の縦割り打破にしても、行政と市民とのすれ違いからくる「お役所仕事」の一掃も、私たち自身が自分の職場で与えられた職務を遂行する際の愚直な忠実さが一因となっています。
私たちは公務員として法令を遵守し、上司の命令に従い、組織の使命を達成するために全力を尽くす「組織の使命に忠実であらねば」という呪縛に囚われているのです。
公務員ならではの強い使命感も大事ですが、この強い囚われからの解放が、市民への心を開き、市民の立場、意見を理解することにつながります。
私たちが職務を離れ個人として自分らしくあることができる居心地の良い職場。
これまでの個人的経験に紐づいた自分自身の価値観や思いを言葉にし、共有できる風通しの良い職場。
行政と市民とのすれ違いや組織の縦割りに起因する「お役所仕事」の一掃は、私たち公務員自身の心を解放することができる、居心地の良い、風通しの良い職場づくりからはじまるのかもしれません。

地方公務員の中途退職(あるいはその検討)理由の1位に掲げられた「変革が期待できない」という状態を変えていくことができるのは「民意」を私たち公務員自身がいかに感じ取ることができるかにかかっています。
市民の目線を持って自分たちの仕事を検証し、市民の付託に真摯に対応すべく自らを変革していくことができるようになるには、まず市民が何を求めているか知るために市民の声に耳を傾けることが必要です。
市民の声を聴き、求めるものが理解できれば、動けないわけではないはず。
逆に市民から見れば、今、自分が求めていることを行政組織としてどう考え、どう取り組んでいるかが見えないために、そもそも市民の側から何を求めてどう声を上げていくのかがわからないという現状もあります。
 
まずは我々公務員が現状を内側から語り、そのことについて市民からの忌憚のない意見をもらえる自由な対話の場を設け、そこでたくさんの公務員と市民が直接つながって互いの立場を超えた情報共有と行政側、市民側の相互が共感できる関係性が構築されることが「変革」に向けた第一の工程です。
既に役所の外に旅立っていった辞め公の皆さんの多くは、この工程に必要な自治体組織と市民との対話の橋渡し役として新天地で活躍されているのではないでしょうか。
そういう意味で、地方公務員の道を離れた理由は決して現状からの逃避ではなく、追い求める理想の自治体像に向かって「変革」を進める先遣隊として、自治体の外に出て、自治体に残った我々とともに改革を進めるためなのだろうと私は大いに期待しているのですが、そういう風に思っていていいんですよね?
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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