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縮みゆく定めのなかで

採用試験を受けてくれてありがとう
3名採用する予定だったんだが
きみ一人しか応募がなかったので
3人分働いてもらってもいいかな
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
以前から、人口減少社会については私なりの見解を述べてきました。

また、先日の投稿で、人口減少という「既に起こった未来」が引き起こす「社会の縮小」という「目を背けたくなる現実」をまず直視すること、と書きました。
私たちは社会全体が縮小していくなかでそれぞれの人口の規模に見合った行政サービスの縮小を余儀なくされる時を「想定内」のこととして備えなければならない、とも。

私はこの問題を財政の視点から今まで考えてきましたが、別の側面から目を背けたくなる真実について話題提供したいと思います。
 それは、自治体運営を担う地方公務員志望者が減少し続けていることです。

それでも倍率が5倍もあるからいいじゃないか、という楽観は許されません。
土木、建築等の技術職の倍率はさらに低く、小規模自治体では応募者がいないという事態も発生しています。
また、比較的志望の多い事務職でも近年、倍率の低下に伴い受験者の質の低下がみられるようになり、合否判定に迷うケースや募集人員よりも少ない合格者数しか出せないケースも見られると聞いています。
長引く景気低迷の中、雇用が安定している公務員の人気は根強いものがあると認識していましたが、景気動向に関わらずこの10年は減少の一途をたどっており、コロナ禍後の景気回復で採用意欲旺盛な民間企業との人材獲得競争に後れを取っている、そんな印象です。
地方自治体の人事担当者界隈からは、住民の信託を受けて的確に社会課題に向き合い、公平公正に業務を遂行することが期待される公務員の質と量を同時に担保することが年々難しくなっているとの悲鳴が聞こえてきます。
 
一方で、人口減少社会のなかで行政サービスがその規模に応じて自動的に縮小されているのかといえばそうではありません。
むしろ高齢化、過疎化により社会保障や地域の住環境維持へのニーズが増加し、さらに老朽公共施設の維持・更新といった新たな課題も顕在化するなか、行政に期待されるサービスは質、量ともに現状維持どころか増加する傾向にあります。
財政の面から言えば、以前からお話ししている通り、少子高齢化による稼働年齢層の減少により税収の減少が見込まれ、社会保障費の増加や老朽公共施設への対応と相まっていよいよ厳しい財政状況に追い込まれていくというのが「既に起こった未来」です。
限られた財源を有効に活用してこの窮状を乗り切るための知恵と力が不可欠だというのに、人材確保の面においてもじわじわと、しかし確実に人口減少社会の進展に影響を受け始めているという現実から、皆さん、目を背けてはいませんか。
 
報道によれば、2022年度の地方公務員の採用試験の倍率は過去30年間で最低だそうで、その理由は、少子化に加え、待遇などへの不満から受験者数が減ったことなどが要因とみられています。

半年ほど前の記事ですが、こちらを見ると、志望減少の理由は「少子化により受験者の母数が減少した」が第一位で、以下「採用試験の科目が多く、受験準備で負担が大きい」「民間企業より採用試験の時期が遅い」「民間企業よりも給与・待遇面で見劣りしている」などが続いています。
人口減少は「既に起こった未来」。
少子化で稼働年齢層が減少するなかで、他の業種と限られたパイを奪い合う構造が今後ますます激化していくことはわかりきった話です。
その中で民間企業との競合で「負担感が大きい」「見劣りがする」などと条件面で格差があるとの認識が広がっていることを私たち自治体職員はどうとらえればいいのでしょうか。
 
人材確保が困難な時の対応策は大きく三つあります。
①  リクルーティング、採用の強化
②  待遇の改善、働きやすい環境の整備、といった人材確保そのものに関することと
③  人材の育成
④  業務のスリム化、効率化による省力化、といった限られた人材でどうやって職務を遂行するか、という方策です。
リクルーティング、採用の強化については、すでに各自治体での取り組みが進んでおり、先ほど紹介した記事にもいくつか事例が挙げられています。
地方公務員の仕事の魅力そのものをきちんと伝え、意気に感じてもらうことが責任を以て職務を担える人材を確保する王道だと私も思いますし、こういう取り組みを進める自治体がもっと増え、あるいは公務員業界全体としての魅力発信の取り組みが進めばいいと思います。
私たち公務員もその一翼を担い、自分の担当業務、職場はもちろんのこと、自治体の魅力、地方公務員として働くことそのもののやりがいなどについて、個人としても情報発信していく必要があると強く感じています。
 
しかしながら、それだけでは他との競合に打ち勝つことはできません。
今後進展するであろう人材獲得競争の激化のなかでは、給与を含めた待遇面での競争は避けることができず、勤務地、勤務時間、勤務形態といった労働条件そのものについても「仕事は生活の一部」と考え、個人の多様な価値観に応じた働き方を選択したいという若い世代の労働意識の変化に呼応して労働条件の柔軟化が進む民間労働市場との競合への対応が迫られることとなります。
しかしながら、公務員の給与、労働条件のほとんどは法により全国一律で定められ、特別な技能を持った人材を非常勤で雇い、独自の報酬水準と労働条件で処遇する取り組みは一部で見られるものの、人材確保のための労働条件の柔軟化等の議論はまだ緒に就いたばかりです。

個人の価値観に応じた働きやすい環境の整備については、育児、介護、ボランティア休暇制度など、民間に先んじて取り組んでいる分野もありますが、実態としての人手不足や、旧態依然とした業務の非効率性などにより結果として長時間労働の常態化、休暇制度活用の停滞を招き、その実情は公務ブラック職場と揶揄されることもあり、その改善は急務です。
これらの取り組みの多くは、自治体の人事・労務部門が所管し、地方公務員全体としての処遇改善を検討し進めているところですが、全体としての取り組みである以上、法令との関係や過去との整合、自治体全体での横並びなどもにらみながら、少しずつしか前進していかないことを歯がゆく感じています。
 
人口減少社会の到来は「既に起こった未来」。
その進展は地方自治体の人材確保に影響を与え、近い将来には行政サービスの維持に支障をきたす程度まで深刻化します。
民間ではすでに、公共交通機関を担う運転手等の人材が枯渇し、多くのバス事業者が減便、路線の縮小を行っており、果ては事業の廃止に至る事例もあります。
これと同じようなことが今後地方自治体に起こりうるということを、私たちは今、直視しなければなりません。
その時に、自治体としてすべての業務から撤退することはできません。
優先順位をつけて必要なものを残しながら、しかしできないことはあきらめていく、そんな業務縮小を真剣に考え、実施せざるを得ない局面が必ず来ます。
そんなじり貧の状態に追い込まれてから、やれ採用の強化だ、待遇の改善だといったところで、沈んでいくことがすでに見えている泥船に進んで今から乗り込もうという気概のある方は稀有でしょう。
また、社会全体が縮小するなかで私たち公務員業界だけが無傷で人材を確保し続けることができるなんて都合のいい未来が実現するはずがありません。
 
このような実情を踏まえ、私たち公務員が人事、労務部門にいなくてもできることは何でしょうか。
答えは一つです。
仕事を減らしましょう。やめましょう。
まだ改革を実行できる体力があるうちに、効率的なやり方に変えましょう。
せっかくコロナで不要不急の業務を縮小したのに、コロナ禍が明ければ再開。
テレワークもWEB会議も必須から選択に逆戻り。
相も変わらず議会や予算編成といった年中行事に必要以上の労力を割き、形式、様式を重んじる文化は昭和の時代から変わらず、いまだに自らの業務領域の拡大充実に貢献した人材が評価され、予算と人員の獲得のために庁内で縄張り争いが絶えないという状況も旧態依然です。
私たち自治体職員は、本当に「既に起こった未来」を見据えているのでしょうか。
 
今より人数が2割減ったらやめる仕事は、今からやめる準備を始めましょう。
今の人数が半分になっても続けないといけない仕事は、半分の人数でできるように業務を改善しましょう。
そのために必要なIT化などの設備投資、規制緩和などがあれば積極的に取り組みましょう。
足りなくなるマンパワーを既存の人員体制で補うという観点からは、職員の能力やモチベーションの向上、コミュニケーション改革などによる人材育成、組織開発、風土改革も有効です。
しかし、どうしても避けられない業務の縮小については市民の理解が不可欠ですので、そのための情報共有、対話をはじめ、人材不足による業務縮小は「想定内」のこととの理解を市民と共有しましょう。
この記事をお読みの非公務員に皆さんも、いずれそのような時代が来ること、その時に今と同じレベルの行政サービスを遍く広く提供することが不可能であること、それは国からの補助金や交付金、地方交付税等のお金で解決できるものではなく、行政サービスの縮小について市民が理解し応じることでしか解決できない問題であることをあらかじめ知っておいていただきたいと思います。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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