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乾杯 長渕剛 エッセイ

「続いての余興は、新郎の高校時代のバレーボール部によるお祝いの唄になります」
ホテルの披露宴会場でアナウンスが流れる。

今日は俺の(俺たちの)昔からの仲間の結婚式だ。

俺たちは中学と高校が一緒だった。
ただ、中学の頃は一緒のクラスになった事が無く、顔見知り程度だった。
"俺と同じくらい身長が高いやつ"そんな印象。
そんなあいつは、俺と同じ高校の、それも同じクラブ活動を選んで来た。
これはたまたまらしい。

俺らはバレーボール部だった。
中学の頃は野球部だった俺は、高校からバレーボールに転移した。
あいつの中学時代は帰宅部だったのに、高校からバレーボールを始めてきた。
聞くところによると、小学校ではバレーボールをやっていたらしく、しかも入学式で先輩からのオファーが断れないとなり、渋々入部したらしい。
 

すぐ居なくなる奴、と思っていたが、あいつはそうでは無かった。
同じポジション(前衛)だっただけに、試合の出場権を奪い合い、自他共に認める好敵手だった。

何回も口喧嘩して、一緒にコーチに怒られて、
何回も試合に負けては、一緒に慰めながら自転車で帰宅して。
2年生からは、クラブ活動以外の時間もいつの間にか一緒に過ごす事が多くなり、
修学旅行の班まで一緒だった事から、周りからは"長身専門の班"と噂される程だった。

「クソーっ、なんであの時に俺が、俺がアタックを止めてれば」
そう俺が落ち込んだ2年目の夏、
あいつはちょっと付き合えよって、試合後の疲れてる身体で呼び出してきた。

地元の山にはロープーウェイがかかっている。あいつはそれを使って、上まで登るぞ、と言ってきた。
「え、なんで?」
「ええから、ついてこいや」
そう余り言葉は交わさなかったが、二人で汗まみれのジャージを着たまま登った。
「おー、これこれ、この夕陽。お前、運良いなぁ」
そう話しかけてきた事と、あの夕陽が素晴らしく大きく、綺麗だった事は覚えている。
ただ、何故ここに連れてきたのか、なんの話をしたのか、殆ど覚えていない。

それから1年後、インターハイには行けず、俺たちの青春時代は幕を閉じた。
3年間の青春はあいつが居たから楽しかった、そう心から言えるほど、楽しかった。

その後俺達はそれぞれの大学に進み、就職した。
バラバラになっても、俺らのチームは、後輩も入れてずっと仲の良さは健在だった。

そんな時、あいつから結婚報告が来た。
それも、一つ下のバレーボール部のマネージャー。
可愛いとは言っていたけど、本当に手を出すとは、と呆れながら、でも幸せそうで良かったとビール片手に祝福した。


「改めまして、本日は俊哉くん、愛菜さん、ご結婚おめでとうございます」
部長が話をし始める。
「僕たちはバレーボール部でした。当時は部活内恋愛禁止だったんですが、まさか、卒業してから俊哉君が、マネージャーに手を出していたなんて、今でも驚いています」そうにやにやしながら話し続ける部長の次は、俺の番だ。

「えー、。昔からの付き合いで、今更恥ずかしいのですが、ちょっと昔話をさせて下さい。 僕たちが高2の頃、試合で失敗した僕を慰めようと俊哉くんは、夕陽を見せに連れて行ってくれました。
その時に何故連れてきてもらったかは覚えていないのですが、毎日同じ時間を過ごし、毎日一緒に汗を流した仲なのに、わざわざ夕陽を見る時間を俊哉くんはとってくれました。」
横には一列に、同じチームの7人のメンバーが揃っている。
一息を入れ、続ける。

「あの日、多くは語ってくれなかったですが、俊哉くんは夕陽を見ながら、泣いている僕にそっと心で寄り添ってくれました。
だから僕は、愛菜さんと愛菜さんの御親族の皆様に約束できる事があります。
俊哉くんはどれ程時が過ぎようとも、誠実に向き合ってくれる奴であると。相手に寄り添える心の持ち主であると。信じた愛を信じ抜く力がある奴だということを」
御親族に向け爽やかに話し、たまにあいつを見て笑いそうになったりしながら、でもはっきりと公言した。

「そんな俊哉くんに、僕達から歌を贈ります。漢臭くなるかと思いますが、皆さん良ければ一緒に歌ってください」
そう、司令塔の仲間が伝えた。
そして、俺たちはスーツを着たまま肩を組む。

「それでは聞いてください。"乾杯"」
その部長の声の後、曲が奏でだした。
音に合わせ左右に揺れながら、でもふざけ過ぎず。
そして俺達の声は、会場の波に気持ちよく乗り、それがわかるたび掴んだ肩が強く強くなった。

そう、俺達は伝えたい。
俊哉、俺たちに青春をありがとう。
愛菜さんと幸せになれよ、と。


かたい絆に 思いをよせて
語り尽くせぬ 青春の日々
時には傷つき 時には喜び
肩をたたきあった あの日
あれから どれくらいたったのだろう
沈む夕陽を いくつ数えたろう
故郷の友は 今でも君の 心の中にいますか
乾杯!今君は人生の
大きな 大きな 舞台に立ち
遥か長い道のりを 歩き始めた
君に幸せあれ!

歌:長渕剛
リリース:1980年
作詞:長渕剛
作曲:長渕剛

チョコレートに牛乳
(写真はネットより拝借致しました。日本代表の皆様の更なるご活躍、楽しみにしております。)

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