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今日のおすすめ本 : 小川洋子『沈黙博物館』

耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首…

「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」

―老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。

形見たちが語る物語とは?村で頻発する殺人事件の犯人は?

記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480039637/


感想を語る、その前に

小川洋子の作品を、一番最初に読んだのは、中学校の頃だったと思う。

教科書に載っていた『最果てアーケード』「百科事典少女」は今でも忘れられない、心に残る作品の一つだ。

使用済みの絵葉書、義眼、徽章、発条、玩具の楽器、人形専用の帽子、ドアノブ、化石……。

「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まっている、世界で一番小さなアーケード。

それを必要としているのが、たとえたった一人だとしても、その一人がたどり着くまで辛抱強く待ち続ける――。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212073

教科書には一部しか載っていなかったために、その後、市立の図書館で借りて読んだ。

その時感じたのは、仄暗い空気だとか、死の匂いだとか、登場する物の繊細さだった。

それから、小川洋子は好きな作家の一人になった。


沈黙博物館の感想

沈黙と喋り語ること、生きていることと死んでしまうこと、安心と恐怖心というのがバランスよく配置され、小気味良く読み進められる作品だ。

人々の死に方の種類の多さには知識量を感じさせられるし、形見についてもなかなかインパクトのある、それでいて特別すぎないものが選定されている。

特に、絵の具を食べて死んでいった人が印象的だ。口元に絵の具が残っている想像をするのは、本来不謹慎であるかもしれないが、究極の美、芸術のように感じられた。

個人的に、この作品を読むのならば
『薬指の標本』も読んでほしいな、と思う。

この靴をはいたまま、彼に封じ込められていたいんです。──恋愛の痛みと恍惚を描く二編。


楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡……。人々が思い出の品々を持ち込む〔標本室〕で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。

「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは……。

奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。

https://www.shinchosha.co.jp/book/121521/

短編〜中編くらいの
『薬指の標本』『六角形の小部屋』の2篇が文庫本に収められているのだけれど、似たような雰囲気がただよっていて、ぐっと世界観に引き込まれる。

まとめ

今回紹介した作品は、男女が描かれていながら、変に恋愛恋愛しい感じでもなく、だからといって味気ないわけでもない、ドキドキさせられる作品だ。

なんといっても作中のモノのたたずまいが、上質なスイーツを食しているかのように、美しく、儚く、心に響く。

純文学を読む人も、読まない人も、ぜひこの記事を入り口として読んでみてほしいと思う。

(積読、買い物リストとして、もしくはこの記事がいいと思った方は、スキしていただけると泣きながら喜びます。)

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