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動物のハローワーク①

《ハローワークの決まり》

 ハローワークに行ってみると、天井近くに『職業に貴賎なし』という達筆な文字が額縁に収まっていた。そうはいってもと思いつつ、正面の整理番号を抜き取って、周囲にいる年配の方々に混じって背もたれのないソファーに腰かけた。

 「番号札924番の方4番の窓口にお越しください」という若い女性のアナウンスを聞きながら、立ち上がって歩き出す疲れた老人の背中を見つめた。929番なのでもうしばらく待っていればいいやと、事務所内を見渡し、やけに子供っぽい動物のデザインがあるので、無職のやるせなさを癒すためだろうなと思った。

 私の番が来て、窓口の中年男性に書類を渡し、内容のチェックが始まった。「ということは、ねずみさんチームでよろしいでしょうか」耳を疑い「ねずみさん?」と聞き返した。「おさるさんチームでもよいと思いますが、ご経歴と年齢を加味すると、ねずみさんの方が合っているかと思われますので」という返答。
 ちょっと頭がついていかなかった。「えっ、で、そのチームというのは何ですか?」
 「業種と職種を再編成した名称になります。職業に貴賎なしなのですが、誤解されている方が多く、業種や職種ハラスメントも社会問題になりましたので、今年に入って国会で決まった名称になります」
 「その、ねずみさんとかおさるさんというのは?」
 「他にも、ひつじさんやたぬきさんなど、多数ありますが、まずは選択肢が広がり過ぎないようにご提案している次第です」
 「多数あるのはわかりましたが、例えばおさるさんってどういう仕事でしょうか」
 「こちらは比較的頭を使うデスクワークになっています、ねずみさんの方は細々とした雑用がメインになります。適性試験の結果ですと、ごりらさんのような力仕事は不向きですし、からすさんのような配達関係も違うでしょうということで、応募枠が多いチームになりますが、こちら2つを紹介させていただいております」

 つまり、就職する際に、製造業とか建設業とかサービス業とか、そういう言葉を使わなくなったのだと理解したが、そんなことをこの場だけでしていても、社会は変わらないわけなので、「例えば販売職はどう呼ばれていますか?」と聞いてみた。
 「あの、そういう言葉をおっしゃっていただきたくないのですが、それであれば、すずめさんかきつねさんチームが近いと思われます」

 昔、すずめをざるの仕掛けで捕まえて、逃げないように握ったときに、なにか脂っぽいものが出てきたのに驚いた思い出もあり、きつねさんチームの提案もしてもらうことにした。
 待っている間に、窓口に敷かれたファイルに目を落とすと、赤字で「具体的な職種名をお話することは、周りのご迷惑となりますので禁止させていただいております」と書いてあった。もうそういう時代なのか。
 「では、ねずみさんチームから1社、おさるさんから1社、きつねさんから1社、ご提案差し上げますので、8番窓口の前でお待ちください。


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