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動物のハローワーク②

《嬉しい再就職》

 隣の3番窓口で、男の怒声が聞こえ、なにやら不穏な空気になっていた。
 「だから、豚だか熊だかマントヒヒだか知らねえが、そんなわけのわからない会社はごめんなんだよ!何度言ったらわかるんだ!」「いえ、だから、つまり、これは以前の用語ですと業種や職種のことで、会社ではないんですよ」というやり取り。
 その男の気持ちはよく分かった。彼もニュースをよく見ていなかったのだろう。

 8番窓口に呼ばれ、品のよさそうな女性から「このような会社からの求人が相性がよいという結果がでましたので、隣のフリーデスクでご覧ください」と会社の番号が書かれたメモが渡された。
 『ねずみ212、さる571、きつね890』ここでは呼び捨てになっていた。

 フリーデスクに埋め込まれたタブレット画面の前に座り、私のIDパスワードを入力すると、先ほどの提案それぞれの、経験相性、スキル相性、年齢相性、通勤相性、といった8個の指標毎の相性率がレイダーチャートで表示され、最後に提案3件が重ね合わされ「どの相性を重視するか60秒以内でお決めください」という表示が点滅し始めた。この短時間の意味はなんだろう。そもそも決断の遅いものはどんなチームにも入れないということか。
 焦りながらも、これで決まらず、また家で待機するのはこりごりだったので、年齢相性のいい、おさるさんチームを選んだ。
 するとタブレットは「空きを確認中」の文字の脇でさるのアイコンがペコペコお辞儀をしており、しばらくして「抽選中」となり「処理中」「処理完了」という表示に変わり、ジャーンという音声とともにさるのアイコンはガッツポーズで停止した。

 よくわからぬがほっとして、次に行く窓口を探していると、フリーデスクの奥の扉が開いて、小太りの職員が、満面の笑みで近づいてきた。
 「おめでとうございます! おさるさんチームの一員になりました! 明日からおさるさんです!」とさるがデザインされたセキュリティカードを渡してくれた。
 彼の首からはにわとりの絵がぶら下がっており、それはこうした公共の仕事なのかなと思いつつ、「こういう風に首にかけてください」と言われるがままに青いストラップを広げてかけた。
 彼はハローワークの出口まで案内してくれて、「さるの571からメールが来ますので、それに従ってお仕事を始めてください。正当な理由がございましたら1週間以内のチェンジは可能ですので、その場合は、メールに記載の案内に従ってご連絡してください」と言ってお辞儀をした。

 おさるさん571か。さるのカードを手に取ってみた。そうか、ついに私はおさるさんの会社に入ることができたんだ。私は小躍りしながら、その古いビルの階段を下りて行った。


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