見出し画像

蔓葉蒐『冨士之龍』

 凮戰ぐ 我の誰やと 冨士は問ふ
代りにいらふ 蟲をば喰らふ
 
 こは蔓葉蒐の歌なりて、ただ咏むれば何ぞと訪はれ、如何なるか、蟲を⻝ふ恠しき行ひする歌なり。近頃見つかりしなれば、世人この秀歌を智らざるらし、恨めしや。
 
 敬ひの心地より詩霊と呼ばれる、作りし胡玲箏溯、心なき烝民ならばこそあらめ、本意解さざれば、門徒にもあり一男にもある故いと口惜しと溯弩に宣ひけり。
 
 然れども、藏府滿つる宛ら分き難く存ず。爲む方なく饑ゑたれば、敎へ給へと云ひけれど、あなかまと仰しけり。疾く申し給へ。饕餮のごとき我が心の荒れ給ふるもやと云ひけれど、あなかま、あなかまと仰せど収まらざりけり。
 
 さるべきにや、冨士が逆鱗に触れぬるや、俄に颪の吹きけり。そはそこらの生きとし生ける蟲を蹴散らしぬ。箏溯蛙の吐く如くあなかしこ、あなかしこと度々念じ給ひけれど、溯弩これかれ家畜宛ら嗤ひ嘲りけり。収めよと宣ひけれど収まらず、然るに裂かれき。
 
 蓋し、不死に不視なる龍は無視の如き不敬をば喰らう、これを信ぜぬ汝らも。


この記事が参加している募集

古典がすき

よければサポートお願いします!!😉