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1ヶ月で35日雨降る島での楽しみ方

1ヶ月で35日雨が降る島へ


もう雨はたくさんだ、と思った。

私は6日間の日程で、屋久島を訪れていた。

屋久島は、"1ヶ月で35日雨が降る"と言われるほど、雨の多い島だ。訪れたのは5月。1年の内で、まだ雨量は比較的少ないベストシーズンだ。

私は2泊3日で、縦走登山へ出かける予定にしていた。淀川登山口から宮之浦岳(九州最高峰 1936m)を経由し、縄文杉(推定樹齢 2000〜7200年)に挨拶して、荒川登山口へと抜けるつもりだ。

しかし、天気予報を見ている限りでは、6日間のうち中日がほぼ雨予報。登山中も小雨が降ることは予測された。通常ならば雨予報の時に登山はしないのだが、せっかく屋久島にきたのだ。もともと苔むした世界なら、雨でも楽しめるだろう。

予定通り、2泊3日の縦走登山を決行した。しかし、予測以上の雨に、私の心は大きく掻き乱されてしまったのだ。

屋久島の洗礼

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結論から言うと、登山中、壮大な絶景はほぼ見れなかった。ただひたすらに、雨、雨、雨。

撥水効果を失ったゴアテックス。
汗か雨かわからないレベルで濡れた服。
何度も水浴びを余儀なくされた登山靴。
水滴で、あっさり壊れてしまったカメラ。

期待を込めて、遠くまで来たのだ。
あっと感動するような出来事が、意図も簡単に手に得られるものだと、思っていた。

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だから、ちょっと凹んだ。
ここまでに屋久島の洗礼を浴びるとは思ってもみなかった。

縦走2日目にして、もう雨はたくさんだ、と思った。早く下山して、お風呂に入って着替えたい。。。

そんなことが、頭の中をぐるぐると巡る。
何しに来たんだ?私は。

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気が散っている私を止める

絶景が見られないのだとしたら、他に何か楽しむ方法を考えないといけない。私はとりあえず、鼻歌を歌うしか思いつかなかったので、鼻歌を歌った。できる限り、自分自身を盛り立ててみた。

雨でももちろん景色はきれいなのだけれど、満たされない気持ちが確かにある。「あぁ、絶景が見たい」と、何度も心の中で思った。心ここにあらず。

私は完全に、気が散っていた。


SNSで見たあの景色は、見れないのかぁ。絶景写真が撮れないなぁ。つまらないなぁ。


そう思いながら歩いていた時、この不満は今回の雨登山に限った話ではないのかもしれないぞ、と思い始めた。

そういえば、何かに文句をつけたいときは、いつも自分に意識が向いていない時だった。例えば「□□さんが〇〇してくれないから、私は忙しいんだ」と考えてしまうことがあった。今山道を歩いている私の場合は、今この瞬間を楽しむよりも、SNS用の写真を撮ること、つまり誰かの視線のほうに意識が向いているのではないだろうか。

他人のせい。
他人の視線。

そもそも、雨の登山でいいと心に決めて、私はここに来たはずだ。なのになぜ、不満を抱く?なぜそこまでの心の乱れが起きているのか?そもそも、雨であることとは別の、何か解消できていない気持ちがあるのではないだろうか?

‥‥。

私が今に意識が向けられていないだけにも関わらず、置かれた環境にだけ、不満を抱いていたのだ。

ぐちぐちと文句を言うために、ここまで来たわけではない。ただ純粋に、楽しみ、屋久島の空気に癒されたいと思っただけだ。

じゃあ、少なくともこの雨を楽しもうではないか。

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気が散っている私を止めた。
「楽しむ」と決めてみた。

ザックを一度下ろして、水を飲む。
サコッシュに、壊れたカメラやおやつが入っていて、重みで肩を圧迫していた。
濡れたレインも、もういらない。
通気性がいいほうが、服の乾きが速いと判断した。傘があれば、十分だ。

余計なものは、全てザックにしまい込んだ。
肩が幾分、軽くなった。

ようし!避難小屋まで、あと30分の道のり。
楽しむぞ。

そうと決めたら、ふわっと体が軽くなる。
30分耐え抜き、無事に目的の小屋にたどり着いた。

1日の終わりに、滔々と流れる川の水で思いっきり顔を洗った。心が芯から満たされて、清々しい気分だった。

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もう、突っ切ってしまえ!

3日目の朝から、外は土砂降りだった。「ここまで降らなくてもいいのにねぇ。」と、他の登山客がため息を漏らしていた。全く同感である。

登山道はほぼ水浸し。
できれば水溜りは避けながら歩きたいけれど、むしろ避けながら歩く方が無理がある感じだ。

もう突っ切ってしまえ!
びちゃびちゃと、水の中もお構いなしに歩くことにした。

歩いてみると、なんてことない。
トレランシューズの通気性が思いの外良くて、サンダルで水の中を歩いている感覚に近かった。

水浴びをしているみたいで、だんだん楽しくなってきた。

そうだよ、楽しんでしまえばいい。

怖い、嫌だ、と避けるのではなく、突っ込んでしまったら案外気持ちよかったりするもんだ。

山肌を流れている水を手酌で飲み、
1日の終わりには川の水で顔を洗い、
登山中は、水で滴る道をぐんぐん歩く。

森を感じることこそが屋久島の醍醐味だと思っていた。けれど、水に触れることで、やっと屋久島と一体感が増した気がした。

触れる。感じる。その質感と、温度感と。この島に流れる鼓動を、たっぷりと味わった。


縄文杉、つまりこの島の"ヌシ"とも、ご対面した。

何分も佇んでいなかったと思うけれど、まるで時が止まったような感覚で、見つめ合ったみたいだった。"よく来たね。"と言ってもらえたような気がした。「いやー、大変でしたよ」と報告しておいた。不思議と対話しているような感覚にさせてくれるのも、屋久島の森と水の力だろうか。

10:30頃、今日歩き始めて4時間半経った頃に、雨足が弱まってきた。
ようやく傘を閉じて歩くことができた。

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やれやれ。長い道のりだった、縦走登山。

随分心が掻き乱された3日間だったけれど、

おかげでこの島から、屋久島の本当の楽しみ方を、教えてもらえたような気がする。

それにしても、下山後のお風呂が楽しみである。

【登山行程】
day1)14:37紀元杉バス停→淀川登山口→15:48 淀川小屋着(泊)
day2)4:00 淀川避難小屋出発→6:33 黒味山頂→9:00 宮之浦岳山頂→9:30 分岐→10:30 永田岳山頂→11:40分岐→12:18 平石岩屋→13:45 高塚小屋着(泊)
day3)6:06 高塚小屋出発→7:10 縄文杉→8:30 ウィルソン株→10:13 楠木別れ→11:30 荒川登山口着

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