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口下手でも、結婚式のスピーチがしたくてたまらなくなる小説

マイクを手にみんなの注目を集めているのは、口下手なわたしだ。周りが静かになると、わたしは大きな会場に声を響かせ、感謝の気持ちを語りだす。涙を流している友人もいる。話し終えると、大量の拍手がなる……

誰かの結婚式に出ると、いつも頭の中で自分がスピーチする姿をシミュレーションをしてしまう。わたしが結婚するとき、新婦としてどんなことを伝えようかといつも考えてしまうのだ。

想いをことばに込めると、本当に涙が出そうになる。思い出を文字にすると、愛情にかたちができて、涙になる。大切な人たちに今までどれだけ支えてもらってきたかが身に染みてくる。脳内で話すだけでも目が潤むのだから、言葉を口にするときには泣いてしまうだろう。

こんな風に脳内で結婚式のスピーチを繰り返すようになったのは、原田マハが書いた小説『本日はお日柄もよく』がきっかけだった。

『本日はお日柄もよく』はスピーチの基本書

主人公のOL二宮こと葉は、ずっと恋をしていた幼馴染の結婚式に最悪の気分で出席していた。そんな披露宴で、涙が出るほど感動的なスピーチに出会う。スピーチをしたのは、伝説のスピーチライターと言われる久遠久美だった。こと葉は彼女の心をつかむスピーチに圧倒し、すぐに弟子入りした。そして久遠の教えをうけながら、こと葉は「政権交代」を目指す野党のスピーチライターとなり、強大な権力をもつ与党にことばの剣で挑むことになる。

小説では久遠久美のすばらしいスピーチを読めるだけでなく、どんな工夫をすれば人の心に残るスピーチになるかが書いてある。下の引用は、小説を読んで一番勉強になったところだ。

スピーチの導入部も、あくまで静かに始める。始め方はさまざまだが、「ただいまご紹介にあずかりました」とか「ひとことお祝いを述べさせていただきます」のような、無駄な枕詞は極力避ける。いきなりエピソードから始めてもいい。結論を先に行ってしまってもいい。とにかく、最初のフレーズがどんなふうに聴衆の耳に届くか。それでスピーチの印象が決まる。(P81)

言い出しはとにかく緊張するので、枕詞を使うことで安心につながる。だけど文章と同じで、最初の出だしが肝心だ。スピーチをする前に司会者が名前を紹介してくれるし、祝いの言葉を言うのは当たり前だ。わかりきったことを言う必要はないし、自分が安心するために枕詞を使ってはいけないのだ。

言葉は剣よりも強し

小説ではたくさんのスピーチが出てくる。親友の結婚式のスピーチ、敏腕コピーライターの書く与党のスピーチ、政権交代を目指す力強いスピーチ、戦友のお葬式での送る言葉……。どのスピーチも涙が出そうになる。たとえフィクションでも、ことばに誰かの強い思いが込められていると、本当に強いのだ。

自分が結婚するときには、絶対に自分の言葉で話したい。披露宴では新婦は控えめに一言二言話すのがマナーなのかもしれないけど、そんな慣習はどうでもいいからちゃんと話したい。本当はすでに考えているフレーズがいくつもあるんだけど、結婚するかもしれない人にnoteのアカウントを知られてしまっているので、ここでは書かないようにする。お日柄のいい日まで、心にしまっておくことにしよう。

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