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【映画評】『HEAT』 男たちのロサンジェルス


映画には様々なキャッチコピーを冠されて広告や宣伝に使用される

そのキャッチコピーの使命は、まず映画本編の内容を的確に暗示させ、次にその世界観を現わす(あるいは匂わす)ような惹句でなければならない

そしてこの、マイケル・マン監督の『HEAT』(1995年)のキャッチコピーは、その両方を完璧に捉えた、数少ない名作であるに違いない

”叫ぶか黙るか、二人は出会った”―

この短いフレーズには全体に緊張感が張り詰め、しかも余計なものが一切ない

この”二人”は、アル・パチーノとロバート・デ・ニーロのことであり、それはロス市警のヴィンセント・ハナ警部であり、犯罪組織のボス、ニール・マッコーリーのことでもある

プロの犯罪者と、それを追う刑事

これほどまでに無駄を削ぎ落としたストーリーの骨子には、彼ら二人を取り巻く人間関係が群像劇のように散りばめられており、同時進行で硬質なロスの街で展開されていく

特に、マイケル・マンの映画ではよく見受けられるロスの夜―夜景と青い街灯が登場人物たちを暗闇の中で浮かび上がらせ、かれらが話す自分自身の思いや孤独、寂寥感が、観ている者の心を激しく揺さぶる

家族関係のような繋がりで結ばれているニール一味が、”最後のヤマ”―白昼堂々と銀行を襲って対峙したときに、この二人は叫ぶか黙るかの選択を迫られる

マイケル・マン監督の中でも最高傑作といわれる本作

劇場公開は約20年前になるが、時代を感じさせる古さが一切ない

この二人の物語とそれを取り巻く群像劇が、いつの時代にも持ち得る普遍的な物語として長い寿命を持っているからにちがいない


実弾を使用しての激しい銃撃戦も、壮絶



#映画にまつわる思い出

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