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投機騒ぎが終わったので、ビットコインが本来の姿に戻った

◇はじめに

◆2017年の価格上昇はバブル

 ビットコインなどの仮想通貨は、2017年に異常ともいえるほどの価格上昇を示した。とくに、秋以降は暴騰した。多くの人が値上がり益を求めて投資した。
 ところが、このブームは17年12月末をピークとして終了し、年末以降は下落に転じた。2018年6月には、ピーク時の価格の3分の1程度にまで下落した。

 一体何が起こっているのか?
 これを正確に理解することは、容易ではない。本書ではこの価格変動の原因を探り、このような価格暴騰がなぜ起こったのかなぜ価格が下落したのかを述べる。そして、今後の価格はどうなるのかなどについて考え、仮想通貨の将来を展望する。

 価格高騰は、投機によって引き起こされたバブルであった。この背後には、ビットコインの仕様改善をめぐるさまざまな動き(新しい通貨を作るハードフォークなど)があった。
 本書の基本的な態度は、「ビットコインは本来、送金用に用いるべきものであって、価格が上昇すると送金手数料が自動的に上がってしまい、送金手段としての魅力を失う。したがってビットコインが投機の対象となって価格が上がるのは、ビットコインの本来の機能から見て望ましくない」というものだ。


◆価格が落ち着けば技術進歩が起きる
 その意味で、2017年の年末以後の状況は、望ましい方向への動きだと考えられる。今後、決済や送金の手段として用いるための技術開発が進められることが期待される。なお、ビットコインの先物市場が導入されたことの意義は大きい。

 2017年のビットコインの分裂は、もともとビットコインの仕様を改善する必要性から生じたものである。ところが、関係者の利害が対立したために、改善が難航した。
 さまざまな調整を経て、結局、Segwitという仕組みが導入された。これを用いて、ビットコインの機能は向上するだろう。実際、さまざまな技術的開発がなされている。2017年には投機の方向に触れたビットコインが、本来のあるべき方向に戻りつつある

 ビットコインだけではなく、メガバンクの仮想通貨なども開発が進み、一般の利用に供されるようになることも望まれる。
 日本はキャッシュレス化において世界の潮流から大きく立ち遅れているが、仮にメガバンクの仮想通貨が一般に広く使われるようになれば、現在の状況を一挙に逆転することも不可能ではないだろう。

◆大きな将来性を持つブロックチェーン
 仮想通貨の基礎となっているブロックチェーン技術は、通貨以外にさまざまな応用可能性を持っており、開発が試みられている。そして、実際に、応用の範囲が広がりつつある。
 とくに注目すべきは、ブロックチェーンを用いれば、電子データの改ざんができなくなることだ。この技術はさまざまな応用可能性を持つが、公文書の管理にも用いることができる。
 日本では、森友問題に関連する公文書を財務省が改ざんするという前代未聞の事件が起きた。こうしたことを受けて公文書管理を改善すべきだとの議論が起きている。この究極的な手段はブロックチェーンの導入だ。いま最もブロックチェーンの導入が求められているのは、日本政府だ。森友問題が忘れ去られる前に、公文書管理の改革を行なう必要がある


◆各章の概要

 本書の概要は、以下のとおりである。
 まず第1章において、仮想通貨をめぐる環境がいかに整備されたかを概観する。

 第2章では、「フォーク」の概念を説明する。2017年にビットコインの分裂問題が起きた。これは、ビットコインがフォークすることから生じたものであるが、フォークというのは極めてわかりにくい概念である。しかし、ビットコインに関するさまざまな現象や問題を理解するためには、これを理解しておくことが不可欠だ。
 2017年の分岐騒動の背後には、ビットコインの仕様がデータの大量処理を可能にするものになっておらず、それをどのような方向に改善していくかという問題があった。このプロセスも複雑でわかりにくい。しかし、ビットコインを知るためには、これも不可欠の知識である。

 第3章では、2017年の価格上昇がバブルであったことを説明する。状況は、18世紀のイギリスで起きた「南海バブル事件」とそっくりであった。ビットコインバブルが起きた原因は、「ビットコインが分岐すると、新しいコインをタダでもらえるので、資産が自動的に増える」という誤解が一般化したことであったろうと思われる。

 第4章では、ビットコインの先物取引について述べる。2017年12月に、シカゴ・オプション取引所(CBOE)とシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)で、ビットコインの先物取引が開始された。これは機関投資家の参入を可能にした。また、ビットコイン価格に関する弱気の見通しが市場価格に反映されるようになったという意味で大きな変化をもたらした。
 実際、12月からの価格下落は、先物市場の導入によって引き起こされたと考えられる。
 この章では、先物市場から得られるさまざまなデータ、例えば売りと買いの残高などを分析する。

 第5章では、仮想通貨に関連する事故を見る。世間の注目を集めたのは、2018年2月のコインチェックでの流出事件である。ただしこれは、2013年のマウントゴックスの場合と同じように、取引所の管理がずさんだったことから生じた事故にすぎない。また仮想通貨リップルの詐欺事件で逮捕者が出た。これも仮想通貨の本体とは関わりがない事件だ。
 ただし、2018年3月には、ブロックチェーンそのものがアタックを受けるという「51%攻撃」が起きた。これはそれまでの事故とは違う深刻なものである。これもフォークに関連する複雑な問題だ。これがどの程度深刻な事故であったかを説明する。

 第6章では、中国における状況を説明する。中国では、アリペイなどの電子マネーが著しい勢いで増加している。これは、AIの技術をも取り入れたものであり、注目される。
 中国のフィンテックはなぜ躍進したのか? その基本には、人材の問題がある。中国のコンピュータサイエンスの水準は、いまや世界一だ。これに比べて、日本の大学でのコンピュータサイエンスの教育体制は、著しく遅れている。

 第7章では、ビットコインの未来を展望する。「ライトニングネットワーク」等の新しい仕組みによって、マイクロペイメントが可能になる。これは、ブロックチェーンの外での取引を、第三者の信頼なしに実現するための仕組みである。また、新しいタイプのブロックチェーンの開発も進んでいる。

 第8章では、日本のメガバンクによる仮想通貨の計画を説明する。これが成功すれば、日本はキャッシュレス化において立ち遅れている現況を、一挙に挽回することができるだろう。
 ただし、その実現は容易ではない。とくに、「価格を安定させるために銀行がどれだけの準備を持つべきか」という問題は、銀行業務の基本に影響を与えかねない大きな問題である。この章では、IT大手企業の金融業進出についても述べる。

 第9章では、ブロックチェーンの応用が広がっていることを述べる。ブロックチェーンは仮想通貨の基礎になっている技術であるが、通貨に限らず、さまざまな応用範囲を持つ。とくに、政府の公文書の管理や公証人のサービスにブロックチェーンを導入すべきであることを強調する。森友問題を契機として、日本で公文書の管理問題が注目を浴びているが、記録改ざん防止のための最終的な手段は、ブロックチェーンの導入である。これについて、エストニアやイギリスの試みについても触れる。

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