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よろけとゆらぎ

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「よろけ」と「ゆらぎ」。。。

似ているようで違うような。。。

・・・私はこんな風に染の仕事で使い分けています。

上の写真は名古屋帯です。

インドの古典の手描き縞を、日本の染色技法の糸目糊と、ロウでもっと繊細な感じにつくったものです。

下の画像が元ネタです。日本名で「有平縞」と呼ばれるものです。

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元になった更紗はインドのものなので、かなりゆるゆるです。ロウで描いた縞です。このゆるさが良いのですね。緻密なようでゆるゆる、ゆるゆるなようで緻密で、さらにいろいろなニュアンスが重なり合っているのがインド更紗の味ですね。

私は、インドの更紗や、インドネシアのバティックなど、アジアのものを参考にする際(ヨーロッパのものでも、その他日本の古典のものでもですが)そのまま使うことは、あまりありません。

特に外国のものを参考にする場合は必ず、日本的繊細さと、日本的緊張感と柔らかさを出すようにします。

日本の古典を使う場合は、根底にある、時代を関係なく流れるものを捉え、形にし、現代的な感じに仕上げます。

下は、上写真のUPです。

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インドのものよりはずっと繊細で密な感じですが「よろけ」ということは残してあります。この仕事は、この仕事をした当時にいた、まだ技術的に成熟していないスタッフにやってもらいました。

まだ精密なものが出来ない状態で、それでいながら、その当人的にはキレイに仕事をする努力を最大限した線を引く、ロウを置く、しかし、よろけて、ムラになる、そこで出来る自然なよろけが良い味わいになるからです。

うまい人がワザとよろけさせると、クサい感じに、あざとい感じになり勝ちなのを避けるためです。(しかし本当に巧い人は意図的によろけさせても自然ですが)

「よろけ」の方は「少し風が吹いて波が立っている湖面」という感じでしょうか。

そして、下は「よろけ」ではなく「ゆらぎ」にしたものです。微妙な違いなので、写真では分り難いですが・・・もっと精密に、美しく漉かれた和紙のようなニュアンスに変換させます。これは私自身がした仕事です。

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かといって、元のインドのよろけ縞の味わいが無くなるほどには整理しません。

「緻密なゆるさ」のようなものを出します。「よろけ」の仕事よりも、一定にロウを置き、均等に味わいをつくります。

「ゆらぎ」のUP画像です。

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「よろけ」よりも均等でありながら、生地や線の素材に添った揺らぎを出し、その素材そのものの緊張感を表出させます。

こちらは「さざ波が立っている湖面」という感じです。

「よろけ」と「ゆらぎ」それぞれの、良さがあります。

この仕事は見た目と違い、技術的に大変な作業です。見た目の線一本に対して、糸目友禅の糊は二本引くことになります。

この線は「描いた」のではなく「糸目で括って染めた」のです。描いた線と、防染によって作った線は味わいが違うのです。

糸目糊の線を二本引いた間に、一本一本染料を挿し、さらに一本一本ロウで伏せ、地色の茶色の部分にはロウをべったりと置き「あせん」という天然染料と銅で発色させ、ロウを介してムラをつくります。

下の「ゆらぎ」の方の写真の仕事は「全通」と言って、帯一本分の長さ全てに柄をつくりました。(全通なので、タイコ裏にも柄があります)殆ど苦行と言って良いような仕事になります。

その苦行のような仕事のなかに、淡々とした、苦労そのものは全く表には出ていない、当たり前な感じを維持し、素材と文様の味わいを自然に出すことが主眼です。

私は染物において、文様と素材が完全に一致していること、それをいつも理想としています。

そして、それが達成されると、帯であるなら、いろいろな着物と合わせる事が出来、着物と帯の組み合わせによる「増幅」が起こるのです。それが、和装の面白さです。

「個性的でありながら、いろいろなものと親和性のあるもの」に仕上げるには、素材の良さを表出させなければなりません。

こんな感じで、ウチでは古典に対します。古典もまた「素材」なのです。


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