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数学科卒の先生が中高生を教えてくださることへの感謝


0. 結論

 私の主張は、中学高校や塾を始めとして、数学について意欲的な生徒が多い環境では、数学科卒や数学の大学院卒(修士・博士)の先生が求められているということと、専門知識の一端を中高生に授けてくれる先生方への感謝です。

 「全ての数学教師は最低限、数学科卒であるべき」という主張ではありません。数学が苦手だったという先生でこそ、生徒にみせられる景色もあるでしょうし。

1. きっかけ

 この記事を書くに至ったきっかけは、以下のような数学教員志望の方のツイートをtwitterで見かけたことでした。

 もちろんこのツイートには擁護や応援のリプライが数多く寄せられていますが、今回はそれはおいておきます。「夢や希望進路は変わる」といった反応も非本質的です。

 今回わたしは、自分は何ら数学が専門ではないものの、数学科卒の先生方に多大な恩恵を受けてこられた、恵まれた環境で勉強できたことに感謝し、(万人受けではないとしても)数学を専門として学んできた方が中高生を教えることの意義とそのことへの感謝を説くためにこのnoteを書くことにしました。

2. 進学校界隈における数学教師のリアル

 さて、私は首都圏の(いわゆる御三家クラスの)進学校出身です。実は、有名な中高一貫校の数学科教員には数学かそれに準ずる分野を専門に大学院まで進んだ先生方が多いです。母校の場合、教員採用において基本的には修士、さらには博士以上を求めています。

 また、東京では有名な理系に強い塾として「SEG」やその姉妹校「エデュカ」という塾があります。首都圏の進学校では「鉄緑会」という東大専門の塾に通う生徒も多い中で、対照的な教育方針をとっていることから強い人気を誇っています(塾事情は本質ではないので割愛します)。上位クラスでは大学数学に踏み込んだりします。

 この塾の数学科の講師紹介を見てみると、

 総じてかなり高学歴で、かつ多くの方が数学やそれに近い分野を専門にしてきた先生です(私が習っていた先生もいます)。

 また、数学が苦手な人向けにもたくさんの本を出しており、東進ハイスクールのCMにも登場する志田晶先生も、名古屋大学の大学院で数学の博士課程に進まれています。ここにあげただけではなく、駿台や河合塾といった大手予備校でも、東大コースなどを担当する先生にもかなり高学歴な方もいます。

 まず「数学科卒の教員はレア」というレベルではなく、一定以上の環境においてはかなり求められてくる能力ということです。

3. 意欲的な生徒を導く力

 ここで、数学系Youtuberである「古賀真輝」さんという方を紹介したいと思います。この方は、大学入試問題や大学数学を講義する数学系Youtuberの方の一人です。

 開成高校を卒業し、京都大学の大学院で数学を学びつつ私立中高一貫校の数学科教員になられています。

 動画でも紹介されているのですが、古賀さんは中学に入る時点で高校数学まで進んでおり、中学生のうちに高校数学を終了、また高校1, 2年生のときに数学オリンピック本戦に進まれています。

 さて、このように数学が大好きで学習を先取りし、かつ数学オリンピックや情報オリンピックといった大会にチャレンジする生徒というのは、無数にいるわけではありません。しかしながら一定数は確実に存在しています。開成だけでなく、灘や筑駒といった学校は非常に数学が強く、数学研究会も極めてハイレベルです(中高の偏差値の高さというより、意欲的な生徒の多さの話です)。

 もちろん、有名中高一貫校に限った話ではありません。

 ひとたびTwitterなどで探し始めてしまえば、中学生で大学数学を勉強している・勉強したいといった生徒が普通に存在している環境です。中3で線形代数とか。国際数学オリンピックのメダリストも複数人いたり。

 こういう生徒に数学を教えることは、簡単ではないでしょう。

 このような生徒集団を抱えた際、「好きを伸ばす」教育に力を入れている中高一貫校に求められるのは芽を摘まずに伸ばすことです。

 動画で紹介されているように、古賀さんは数学の先生に難しい問題を与えられたことを印象的なエピソードとして話されています。このように、高レベルの生徒を導く能力が重要になってくる環境というのが、たしかに存在しているのです。

3.5. 注意点:安易なトレードオフ思考

 ここで一つだけ注意を。「なにかが優れている人はなにかに劣っている」といったトレードオフ思考に注意してください。

「頭がいいから、高学歴だからといって教えるのが上手いとは限らない」

 それはそうでしょう。ですが、「それは数学力が低い方が教えるのが上手い」ことも、「数学力が高い方が教えるのが下手である」ことも意味しません。安易なトレードオフ思考です。

「数学が苦手な生徒には数学が苦手だった先生が合っている」

 その側面はあるのでしょう。決して全ての中学や高校の先生が数学科を出ている必要はないでしょう。しかしながら、「数学が得意な人には苦手な人の気持がわからない」というのは安易なトレードオフ思考だと思います。

4. おまけ:大学入試にも役立つ

 また、数学を深く勉強した数学の先生には、大学入試の問題の背景を俯瞰する能力があります。これはなかなか、学部である程度は数学を勉強していないと難しいことです。

 どういうことかというと、入試数学で思考力を問うレベルの大学では、大学数学や発展的な内容が背景にあり、高校生向けに誘導をつけたりアレンジした問題が少なくありません

 そういう問題を解説するときに、ただ解くのではなく、背景の理論まで説明できる力というのが生徒の意欲関心を引き出すことはままあります。数学の奥深さを俯瞰できる能力というのがかなり活きてくると思います。


 今は、界隈では超有名な「高校数学の美しい物語」などで高校数学と大学数学の橋渡し的な発展的な内容が独学できる、良い時代です……

 「実はこういう理論があって……」とか、「実はこれを発展させたのが……」といった小話も、積み重なれば生徒を刺激します。そこからもっと調べる生徒が生まれ、勉強する生徒が生まれます。

 私は数学が苦手科目でしたが、数学の面白さを教えてくれるタイプの先生にたくさん出会えたため嫌いになることはありませんでした。これは得難い環境であったことが、今ではわかります。感謝しかない。

5. つまり

 結論としては、中学高校や塾を始めとして、数学について意欲的な生徒が多い環境では、数学科卒や数学の大学院卒(修士・博士)の人材が求められていると思います。

 これは苦手な生徒をおきざりにするとか、高学歴が優秀とか、そういう次元の話ではなく、「意欲的な生徒の芽を摘まずに伸ばす」という、簡単に思えて難しいであろう"役割"の問題です。

 もし共感していただけた方は、このnoteをTwitterなどのSNS、ブログ等でシェアしていただけると非常に喜びます。


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