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山と海の繋がりを体感する屋久島の旅3.山の神秘に触れる

実家の米農家を継ぎ、仲間たちと自然の循環を大切にする村づくりに取り組んできた中で実現した、今回の屋久島の旅。

標高2000メートル近くの山と海、それらを繋ぐ川が生み出す豊かな生態系と自然の循環を体感する旅の記録ですが、前回の海編に引き続き、今回は山編です。

山を体感すると言っても漠然としていますが、今回は旅の仲間が滞在している拠点の近くを流れる川の源流に向かい、その源流と山、そして海の繋がりを1日で体験するという行程です。

めざす源流は写真に見える表岳に隠され、人里からは見ることができない奥岳にあります。車で行けるところまで行き、そこから歩いて森へ入り、源流へ向かう予定です。

この写真を撮ったのは陸橋の上なのですが、振り返れば川が海へ流れ込んでいる様が見えます。

さあ、車を使ってだいぶ高いところまで来たような気がします。途中、車を留めて休憩したのは、海の向こうに種子島が見えるスポットです。

屋久島から見た種子島は、屋久島と対象的に起伏が少ない平野がちな島のようです。

この後も何度か、車を停めて休憩を挟むのですが、その度に新たな学びや発見がありました。

それは、以下に紹介するように、自然の豊かさ、雄大さだけではなく、人が介入したことによって不健康になってしまった姿もいくつか見られました。

自然のバランスが崩れると、山や川はどうなるのか?

例えば、以下の写真は小さな橋が川にかけられたことで、川の環境が変わってしまった様子です。

この川は実は、屋久島の旅・海編でも紹介した「滝之川の一枚岩」のすぐ下流に位置する場所です。

屋久島に限らず、健康的な森は下草と木立が自然に秩序だって立ち並び、風通しが良くなっています。
こうなることで、十分に成長した木だけではなくこれからの森を担う若い木にも陽光が当たり、世代交代も自然の秩序によって行われやすくなっています。

ところが、すぐ下流に位置するこの場所では、川の石の大きさもまばらになり、野草が鬱蒼と生い茂る暗い藪になってしまっています。

こうなると、風も通りにくく、陽の光も競い合うように野草が無秩序に伸び、また川の水も川底を通って地下水となり、下流や海岸で湧き水となるといった流れを滞らせてしまいます。

さらに、ダムを作ろうとした結果、山の水の流れを分断してしまい、不自然な水の滞留の後に崩落してしまった跡地や、

斜面の崩落の後にシダが生い茂っている道路沿い等も見られました。

シダ植物は浅く根を張る植物であり、このシダが生えて場を整えることで、後にさらに深く根を張る植物が育ちやすくなる土壌を作っていくと言います。

土砂崩れの後に生えてくる植物たちは、自然の力による再生の証というわけです。

そんな道中の学びもありつつ、とうとう源流へ到着しました。

源流へ到達:海へ至る川の流れの捉え方が変わる

ここが、源流です。
この少量の湧き出す水がやがて大きな川の流れとなり、時に大雨で氾濫すると巨石をも動かしてきました。そして、最後には海へ還っていきます。

ところで、川の流れと聞くと、私たちはどのような光景をイメージするでしょうか?

コンクリートブロックで固められたU字の路を水が流れていく……これが都市ではよくイメージされる姿かもしれません。

しかし、自然の中にある川の流れとは地表近くで流れていくだけではなく、川底に浸潤して地下水脈として網の目のように流れていき、時に川の表面に現れる、または別の場所で湧水になるという縦の動きを伴う水の流れであると、この旅の中で学びました。

このような滝があれば、その水圧によって川の水は地下へ浸潤するもの、川の表面を流れていくもの等に分かれたりする、ということです。

また、時には波打ち際や海に至る途中の地点で湧き水として浸み出し、また川に合流したりしながら、最後は海に還っていきます。

そして、海へ流れ込んだ水が水蒸気として上空へ昇り、雲になって再び山頂に雨を降らせれば、源流を形作る水となる。

このように川の流れを捉えると、今までとは川の眺め方が全く変わってきました。

他方、よく目にするコンクリートブロックやU字溝で固められた川や波打ち際では、このように川底から地下水脈へ流れる水の流れを分断してしまいます。

海の波打ち際を固めれば、まず、海藻や水草が生育することができなくなります。さらに、山から流れ込んだ淡水と海水が入り混じる汽水域が形成されなくなり、そこに住むプランクトンやエビなどが棲めなくなります。そうなれば、それらをエサとする小さな魚たちも居場所を失って、次第に生態系が壊れていってしまいます。

人間視点で自然を捉えるのではなく、より複合的、複層的な視点で自然を捉え、その循環を好循環へ導いていくために、果たして私たちには何ができるのでしょうか?

森に関しては、その一つのアイデアを知ることができました。

人界から異界へ:森の主との邂逅

源流へ近づくと、麓との温度差が6〜7度あるためどんどん肌寒くなってきます。

また、屋久島という島の特性なのか、30分刻みで天気が入れ替わっていきます。

旅の仲間は源流に到着した後、案内に従って森の中へ入り、「ある地点」をめざすこととなりました。

ここはもはや車で入ってくることはできません。「ある地点」に到達するため、四肢を駆使して山を登っていきます。

ここは、森の創り出した法則やシステムによって成り立っている「異界」だと感じました。

案内してくださっている今村さんは、時に足を止めて足元の枝を拾い、斜面に対して並行になるように並べています。

これは「|枝絡み《しがらみ》」を作ることで、森が健やかな状態へ移行するお手伝いとのことです。

森の中を歩いていると、折れた枝などが斜面によく落ちています。これを柵にしてあげることで、上流からの雨水や土などがその柵によって押し留められ、柵に沿って土中に浸潤しやすくなります。また、柵に留められた枝や落ち葉には微生物が棲息しやすくなり、土壌がさらに豊かになっていきます。時にこの柵は、次世代の森を担う若木の周りに施すことで若木を守ることもできます。

結果、土壌の流出を防ぎ、土中に水や微生物を供給する手助けをし、森が豊かになっていくお手伝いをすることができるというものです。

ここまで聞いてしまうと、森を行く途中で枝や適当な斜面が見つかるとついつい、柵を作ってしまいたくなりました。人の手が入ることで、森のお手伝いをできることもあるのだ、と。

そのように柵作りと登坂を続けていると、この森の主が姿を現しました。

巨石をその幹の中に抱え込みながら、佇んでいるその姿はまさに森の主と呼ぶのにふさわしい神々しさや厳粛さ、畏怖を感じました。

眺めているだけで、一人の人間が及ばないような途方もない時間をこの森で過ごしてきたことが語り掛けられるようです。

麓から源流へ、そしてこの場所へ。

多くの学びがありましたが、その存在感から伝わるものは言語を超えていました。

屋久島まで来れて良かったと、本当にそう感じられました。

そこで旅の仲間たちは暫しの時間を過ごした後、人界へ……山の麓の拠点まで帰ってきました。

次回の記録が、この屋久島の旅の記録の最後。振り返りとまとめになる予定です。



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