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【読書感想】とりあえず1度で良いから読んで欲しい1冊

こんにちは、Yukiです。

今回取り上げる本は、國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』です。

つい最近、新潮社から文庫として出版されました。行きつけの書店で新刊コーナーにあった本書をなんとなく買って読んでみたら、とても面白い。夢中になって読みました。

是非とも多くの人に読んでもらいたいと思い、取り上げようと思いました。

本の内容

本書のテーマは、タイトルの通り「暇」と「退屈」です。

「暇」や「退屈」と聞くといかがでしょうか?一般的には、ネガティブなイメージ、できれば避けたいものと思われているのではないでしょうか。できるだけ暇や退屈を避けるために、僕たちは予定を入れたり、何か集中できることに取り組んだりしているのだと思います。

しかし、そもそも暇とはなんでしょうか?退屈とは何でしょうか?いつから暇や退屈は存在するのでしょうか?そして、人はこうした暇や退屈とどのように付き合っていくべきなのでしょうか?

本書では、こうした問いに対してパスカル、ラッセル、ニーチェ、ハイデガーなどの哲学者の議論を下敷きに考察していきます。彼らだけではなく、文化人類学、考古学、経済学、消費社会論、動物行動学などの幅広い学問分野の知見・議論を参照しつつ、問いに取り組みます。

……と、簡単な本の内容紹介ですみません。しかしちゃんと理由があります。それはこの本の内容がとても濃く、どこかを切り取って紹介しても不明瞭になってしまうからです。繰り返しになりますが本書では、哲学、文化人類学、考古学、経済学、消費社会論、動物行動学などの考察を総動員して「暇と退屈」というテーマに取り組みます。言い換えれば、「暇と退屈」というテーマはそれだけ範囲の広いテーマでもあります。そのため内容も盛りだくさんになります。

加えて各章が独立しているのではなく繋がっています。なので、ある部分を切り取ると前後関係を無視することになってしまいます。そうすると、読んでいない人にとって、「なぜこの話がここで登場してくるのか」が分からなくなってしまいます。

つまり、本書を最初から最後まで読んだ時、初めてこの本を楽しむことができるということです。(この点は、この本に限らず他の本にも言えると思います。)

この点について國分さんは「結論」の部分でこのように述べています。少し長いですが、大切だと思うので引用します。

以下、これまで得られた成果をまとめ直し、<暇と退屈の倫理学>が向かう二つの方向性を結論として提示する。ただし、それら二つの結論は、本書を通読するという過程を経てはじめて意味を持つ。・・・(中略)・・・読者はここまで読み進めてきたなかで、自分なりの本書との付き合い方を発見してきたはずだ(もしそれが発見できなかったなら、ここまで通読するのは難しかったであろう)。それが何よりも大切なのである。それが暇と退屈というテーマの自分なりの受け止め方を涵養していく。それこそが一人一人の<暇と退屈の倫理学>を開いていく。そうやって開かれた一人一人の<暇と退屈の倫理学>があってはじめて、本書の結論は意味を持つ。したがって、以下の結論だけを読んだ読者は間違いなく幻滅するであろう。また同じ意味で、本書の結論だけを取り上げて、そこに論評や非難を浴びせることも無意味である。論述の過程を一緒に辿ることで主体が変化していく、そうした過程こそが重要であるのだから。

まるで、読書感想を記事に書くことを予見していたかのようです。ということで、気になった方は、是非とも自分で手に取ってよんでみてください。

読んだ感想

本書は、約500ページもあり分厚い本です。しかも中身の詰まった議論が展開されています。そのため、通読に時間が掛かると思っていたのですが、あっという間に読み終えてしまいました。端的に言えば、それくらい没頭させるほどの内容だったからです。

まずは「暇と退屈」というテーマ設定です。このテーマは現代を生きていく上で避けて通ることはできません。つまり、誰にとっても関係があるということです。一般的に哲学は、なんだかお堅い、というイメージを持たれているように思います。しかし、「暇と退屈」というテーマは先述したように誰にとっても関わりがあるので、哲学のお堅いイメージは払拭され、内容に引き込まれたのではないかと思います。

2つ目は、文章の平易さです。本書ではいろんな思想家の議論が紹介されます。一般的に彼らの議論や使われている言葉は難しく、一読了解とはなかなかなりません。しかし、本書では簡単には理解できない概念や考えを國分さんが、分りやすい言葉に置き換えて解説してくれます。また、文章自体も難しい表現や、遠回りな言い回しがないです。そのため、すいすい読むことができます。

3つ目は内容の豊富さです。すでに述べましたが、本書では哲学者の議論だけでなく、他分野の議論もふんだんに参照されます。哲学のみで考えようとすると、どうしても哲学一辺倒になってしまいます。しかし、他分野の知見を用いることで、内容が豊かになります。一つの視点からだけでなく、様々な視点から「暇と退屈」を眺めることで、飽きずに読むことができます。

まとめれば、誰にとっても関係のあるテーマ設定であること文章が明快であること内容が豊かであること、主にこの3つの要素がかみ合っていたため、500ページという分厚い本にも関わらず、一気に読めたのだと思います。

以前ご紹介した本に『使える哲学 私たちを駆り立てる五つの欲望はどこから来たのか』があります。著者である荒谷さんは哲学について、このように述べていました。

哲学は何よりも実践です。日常生活において当たり前になっていることをもう一度疑い、あらためて考え直すことで、まったく当たり前ではない事実を私たちの日常の中に探り当てることが、本来の意味での哲学なのだと思います。

この考え方を見事に体現したのが、本書ではないでしょうか。

僕にとって「暇と退屈」はすでに当たり前の事実でした。なので、改めて疑問を投げかけるということはしていませんでした。ですが、この本を読んだことで、実は「暇と退屈」というテーマはかなり重大なものであり、かつ奥深いということに気づかされました。

また、この本を読んだことで「暇と退屈」という一見変哲もない事象を、また違った視点から捉え直すことができました。本を読むことで得られるものの1つに、これまでとは異なる視点から物事を考えられるようになることではないかと思います。身近にあり自明視されている事柄であればあるほど、そのインパクトは大きいです。

終りに

2022年にはいったばかりで、まだそこまで多くの本は読めていません。しかしながら、すでに「これは!」と思うほどの本に出会えた気がします。本とは出会いである、とは言いますが僕は良い出会いに恵まれました。

今後どんな素晴らしい本と出会えるのか楽しみです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!

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